
フリーランスのイラストレーターとして活動しようと考えている方の中には、開業届は収入がなくても出すべきなのかと悩む方もいるでしょう。
開業届は事業を開始することを税務署に届け出るための書類です。提出のタイミングに迷うかもしれませんが、開業間もなくの収益がない段階から提出しておくと大きなメリットを得られます。
そこで本記事では、イラストレーターが収入なしの段階で開業届を提出するメリットや注意点を解説します。
イラストレーターは「収入なし」の時点でも開業届を出すのがおすすめ
イラストレーターとしてこれから活動していくのなら、収入がない段階から開業届を提出しておきましょう。
フリーランスとして活動しているという証明になるためです。契約や業務委託の際に、開業届を提出していると信用につながるケースは少なくありません。例えば、法人と仕事をする場合、開業届を出している人のほうが契約の可能性が高まる傾向にあります。
また、国民年金や健康保険の切り替えがスムーズにでき、社会的な立場を「事業者」として確立できます。さらに、確定申告の際には、最大65万円の特別控除が利用できる青色申告を選択可能です。
イラストレーターは活動初期に「同人活動」や「コンペへの応募」、「ポートフォリオ公開」などから始める人は多いでしょう。事業初期の段階で提出しておくと、支出を経費にできる環境を整えられます。準備期間の費用を経費として扱えると、後に所得税から控除できるのが大きな利点です。
提出しないリスクはあっても出して損をすることはありません。将来的に青色申告を利用する予定があるなら、収入がない時点でも早めに出すのが賢い選択といえます。
なお、開業届は、「事業を開始する意思」を税務署に届け出るための書類で、収益が上がっていることが提出の要件ではありません。まだ仕事が少なく収入がゼロの段階でも提出することが可能です。
収入なし・赤字でも開業届を出すメリット
イラストレーターとして収入がなかったり、赤字であったりする状態でも、開業届を出すことで次のメリットを得られます。
青色申告の準備ができる
イラストレーターが収入ゼロの段階でも開業届を出すべき最大の理由は、青色申告の承認申請が可能になることです。
青色申告では、最大65万円の特別控除や、家族への給与を経費として計上できる「青色事業専従者給与」など、白色申告にはない優遇措置を受けられます。これにより、将来的に収入アップした際に節税効果を享受できるのが魅力です。
また、青色申告は金融機関からの信用にも直結します。事業融資やクレジットカード作成の際には「青色申告をしているか」が審査の参考にされるケースがあるためです。制度を活用できる状態を整えておくことは、将来の資金調達の可能性を広げることにもつながります。
ただし、青色申告をするには帳簿付けが必須です。開業届を出した時点からこまめに帳簿付けすることで、後になって慌てることがありません。正確でスムーズな申告をするためにも、記帳は習慣化しておきましょう。
損失の繰越控除
青色申告のメリットの2つ目は、「純損失の繰越控除」が使えることです。純損失の繰越控除を使えば、その年の赤字を翌年以降3年間の黒字から差し引いて申告できるため、税金の負担を軽減できます。
例えば初年度に30万円の赤字が出た場合、翌年に50万円の利益があれば、差し引き20万円分にのみ課税される仕組みです。仮に2年目も赤字となった場合には、3年目の黒字と相殺が可能です。
イラストレーターとして独立したばかりの頃は、収入よりもPCやペンタブレット、ソフトの購入費用など初期投資の支出が先行し、赤字になることは多いでしょう。この赤字をただの「損」として終わらせないためにも、開業届を提出して青色申告を利用すべきといえます。
その他、早期に開業届を出すメリット
開業届を早めに提出することには、青色申告以外にもさまざまなメリットがあります。まず、屋号(ペンネームやサークル名など)を用いた銀行口座を開設できるようになる点です。
これにより、プライベート用の口座と事業用の口座を明確に分けられるため、入出金の管理がしやすくなり、確定申告時の帳簿付けがスムーズになります。また、屋号入りの口座を利用することで、クライアントからの信頼性が高まり、プロとしての信用を得やすくなることもメリットです。
さらに、国や自治体が実施する、補助金や助成金制度に応募できる可能性が広がります。例えば「創業補助金」や「小規模事業者持続化補助金」といった制度です。開業届を出していないと応募資格を満たせないケースがあるため、活動資金の捻出に対する選択肢を広げる意味でも提出すべきといえます。
なお、開業届を出すと「個人事業主」として正式に登録され、事業用クレジットカードの作成や、会計ソフトの事業者向けプランが利用可能になることもあるのです。さまざまなメリットを享受できることから、収入がなくても開業届は提出しておくことを推奨します。
開業届の提出手続きの概要・タイミング
開業届の提出は難しそうに感じるかもしれませんが、実際には「①書類を入手する」「②必要事項を記入する」「③税務署に提出する」という3ステップで完了します。
書類は国税庁のホームページからダウンロードでき、郵送提出も可能なため、直接税務署に行かなくても問題ありません。
提出期限は「開業から1か月以内」とされていますが、収入がなくても提出でき、遅れて提出したとしても罰則はありません。ただし、青色申告を利用するには、「青色申告承認申請書」を提出する必要があります。開業届と同じタイミングで提出できるように、準備しておきましょう。
書類を記入する際には、屋号を記載するか、職業欄に「イラストレーター」と記載するかなど、迷うことがあるかもしれません。
屋号は任意ですが、将来的に銀行口座や請求書に記載したい場合は最初から決めておくのがおすすめです。
また、提出のタイミングは、最初の案件を受注した時点や、事業用の設備を購入した時点を目安にする人が多いです。機材やソフトの購入額が大きくなるため、その支出を経費にするなら開業届を出しておくのが有利です。
さらに、freeeやマネーフォワードといった会計ソフトを活用すると、開業届をオンラインで作成でき、提出書類を自動生成する機能が使えます。
ツールを利用すれば、会計処理などが一層簡単になり、迷わず提出できるでしょう。事業を長く続ける意思があるなら、できるだけ早く手続きを済ませてしまうのがおすすめです。
まとめ

イラストレーターとしての開業届は、収入がない段階からでも提出しておくべきといえます。確定申告では青色申告が活用でき、赤字を翌年以降に繰り越せるなどのメリットを享受できるためです。
また、屋号付きの銀行口座を開設できるため、資金管理の明確化や取引先からの信用度アップにもつながります。提出手続きはシンプルで、書類の準備から提出まで3ステップで完結します。
とはいえ、開業届の出し方や、青色申告の記帳方法に不安を感じる方もいるでしょう。そのような方は、税理士に相談してみてはいかがでしょうか。
田中貴久公認会計士事務所は、クリエイターを初めとしたフリーランスの税務・会計の支援実績が豊富にあります。イラストレーターの事業支援にも精通しているので、わからないことがありましたらお気軽にご相談ください。
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