
これからクリエイターとして事業を始める、あるいはフリーランスとしてやっていくことを決めた方の多くは、税金を少しでも抑えたいなと考えているのではないでしょうか。
その1つの方法として、開業前の支出の計上を検討している方もいるかもしれませんね。しかし、実際に計上しようとすると、「いつまでさかのぼっていいの?」「そもそもどういった支出を開業費にできるの?」などと疑問に感じる方は多いです。
そこでこの記事では、開業費の計上に関する疑問とあわせて、税額を抑えるポイントを解説します。
これから事業を始める方やフリーランスとなる方は、ぜひご一読ください。
開業費はいつまでさかのぼれる?認められる期間の目安
開業費は一般的に数か月~1年程度前の支出を開業費として計上できます。この期間内であれば、事業を開始するために直接関連する支出であるとあなた自身が説明しやすく、税務署側からも合理的だと判断されやすいです。
ただし、1年を超えていても、事業を始めるために明らかに必要であったと客観的に説明できれば、開業費として計上できる可能性があります。
例えば、創作活動に使用するイラストソフトを2年前に契約し、独立に向けて作品を制作していたとします。利用記録や、独立準備として作成したポートフォリオなどが明確に残っていれば、開業費として認められる可能性があるのです。
なお、開業費として認められるためには、期間に関わらず、その支出が「開業と直接関連している」ことが必要です。支出を証明する領収書やレシート、利用記録などを保存しておき、開業に必要な支出だったことを説明できる状態にしておきましょう。
【クリエイター向け】開業費をさかのぼって計上できる支出4選
開業費としてさかのぼって計上できる支出を4種類紹介し、仕訳例も紹介します。
なお、開業費は「繰延資産」といって、いったん資産として計上しておき、必要なタイミングで経費に振り替える処理をします。開業費は税務上いつでも経費に振り替えられるため、利益が多く出た年にまとめて振り返ることで、税額を抑えられます。
1.撮影・制作機材の購入費
カメラ、マイク、照明、三脚など、事業を開始する前に購入したものは開業費として計上できます。
ただし、単価10万円以上かつ1年を超えて使用するものは開業費にできず「減価償却資産」として計上します。その後、法定耐用年数に応じて毎期「減価償却」をして、毎年経費に計上していく処理が必要です。
開業費として計上する際の仕訳例を以下のとおり紹介します。
(1)5万円のカメラを購入した
| 借方 | 貸方 |
|---|---|
| 開業費 5万円 | 事業主借 5万円 |
(2)その後、カメラ分の開業費2万円を取り崩した
| 借方 | 貸方 |
|---|---|
| 消耗品 2万円 | 開業費 2万円 |
また、減価償却資産として計上する仕訳例は以下を参考にしてみてください。
(1)10万円のカメラを購入した(法定耐用年数5年)
| 借方 | 貸方 |
|---|---|
| 器具備品 10万円 | 事業主借 10万円 |
(2)減価償却を行い、2万円を償却した(10万円÷5年=2万円)
| 借方 | 貸方 |
|---|---|
| 減価償却費 2万円 | 器具備品 2万円 |
ただし、プライベートでも使用している場合は取得価格を按分し、事業で使う費用のみを経費計上する必要があります。
2.ソフトウェア・アプリの契約料
Adobe CC、Canva Pro、会計ソフトなど、事業のために開業前にサブスクリプション契約しているものは、開業前に契約した年間・月額サービス料も開業費として計上できます。
その場合の仕訳例は以下のとおりです。
(1)開業前からCanva Proを契約していた
| 借方 | 貸方 |
|---|---|
| 開業費 3,540円 | 事業主借 3,540円 |
(2)Canva Pro利用料分の開業費を取り崩した
| 借方 | 貸方 |
|---|---|
| 支払手数料 3,540円 | 開業費 3,540円 |
サービスの利用料金のうち、開業前の料金のみが開業費となります。開業前後に利用期間がまたがる場合には、適切な按分が必要です。
また、ソフトを購入した場合で、単価10万円以上かつ1年を超えて使用する場合は、減価償却資産として計上する必要があることを覚えておいてください。
3.Webサイト・ポートフォリオ制作費
事業のために開業前に作成した、Webサイトのドメイン取得料金やレンタルサーバー代、テーマ購入費あるいはポートフォリオ制作における外注費は、開業費として計上できます。
仕訳例は以下のとおりです。
(1)開業前に事業で使うポートフォリオの制作を5万円で一部外注した
| 借方 | 貸方 |
|---|---|
| 開業費 5万円 | 事業主借 5万円 |
(2)その後、外注料金分の開業費2万円を取り崩した
| 借方 | 貸方 |
|---|---|
| 外注費 2万円 | 開業費2 万円 |
なお、Webサイト制作費が20万円以上かかる場合は、開業費ではなく減価償却資産として計上する必要があります。
4.広告宣伝費・名刺・ロゴ制作費
事業開始時の認知獲得として、開業前に名刺やロゴを制作した場合や、SNS広告を載せた場合の料金も開業費として計上できます。
仕訳例は以下のとおりです。
(1)開業前に知名度を上げるため、SNS広告として10万円を支払った
| 借方 | 貸方 |
|---|---|
| 開業費 10万円 | 事業主借 10万円 |
(2)SNS広告分の開業費10万円を取り崩した
| 借方 | 貸方 |
|---|---|
| 広告宣伝費10万円 | 開業費10万円 |
開業費の対象になるのはあくまで開業前に行った宣伝活動のみです。開業後は、広告を打ったその年に広告宣伝費として経費計上してください。
開業費を計上する際の3つの注意点
開業費を計上し、経費として取り崩す場合にはいくつかの注意点があります。税務調査が入った場合に開業費を否認されると、追徴課税という追加の税金支払いが発生する可能性があります。
注意点を3つに分けて解説するため、参考にしてください。
1.領収書・レシートは必ず保管する
開業費として計上する支出の領収書やレシートは必ず保管しておきましょう。税務調査が入った際に、支出を証明するものとして使えます。
購入目的を併せてメモしておくと、後で税務調査が入った際にも支出の理由を説明しやすいです。
万が一、領収書やレシートを無くしてしまい再発行もできない場合には、支出日や金額、購入店舗名や商品内容などを詳細に記載したメモを残しておきましょう。
2.10万円以上の資産は「減価償却」として別扱いとする
単価が10万円以上、かつ1年以上にわたり使用するものは、開業費ではなく減価償却資産として別で計上する必要があります。これは、開業費と減価償却資産で経費計上できるタイミングが違うためです。
開業費は税務上、任意のタイミングで計上できるため、初年度ですべて経費に振り替えることもできます。
一方で、減価償却資産は税務上、法定耐用年数で一定期間にわたり経費計上する必要があります。法定の減価償却方法は「定額法」にて、毎年均等に経費計上が必要です。
例えば、耐用年数が5年、20万円の減価償却資産を1月1日に購入した場合、毎年4万円ずつ経費計上する計算です。
(20万円÷耐用年数5年=4万円)
3.任意償却のタイミングを考える
開業費をいつ経費計上するかによって、最終的な税額が大きく変わります。開業費は税務上、任意のタイミングで償却できる「任意償却」という仕組みです。
確定申告による所得税の計算は、収入から経費を引いて所得を算定します。
その所得から「所得控除」を引いた額に税率をかけ、税額を算定します。そして「税額控除」があれば差し引いた残額が、納付すべき所得税です。
任意償却した額は経費となります。任意償却を多くすれば経費が増えて所得が減るため、最終的な税額が減ります。
また、所得税は所得が大きくなるほど、税率も高くなっていく仕組みです。例えば、所得が194万9,000円までは税率が5%ですが、所得が195万円からは10%となり、税率が倍になります。
つまり、所得が多くなりそうな年に任意償却を多く計上することで、所得を抑えられるということです。結果、税率が下がり、大きく税額を減らせる可能性があります。
このように、開業費をいつ経費計上するかのタイミングは、税金対策において非常に重要です。
まとめ

開業費としてさかのぼって計上できる期間の目安は、数か月~1年ほどです。ただし、関連性や合理性を説明できるのであれば、それ以上前の支出についても開業費とできる可能性があります。
いずれの場合も、領収書やレシートは必ず保存し、事業との関連性を説明できるようにしておくことが欠かせません。
開業費計上の判断や、会計処理に不安がある場合には、専門家である税理士にサポート依頼することをおすすめします。
田中貴久公認会計士は、クリエイターの確定申告を支援した豊富な実績があります。税務に関するお悩みは、お気軽にご相談ください。
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