
ビジネスの現場では、取引先への手土産や現場スタッフへの飲食物の提供など、「差し入れ」と呼ばれる支出が日常的に発生します。
これらは単なる気遣いにとどまらず、業務を円滑に進める、関係性を維持する、ブランド認知を高めるなど、事業活動の一環として重要な役割を果たします。
一方で、差し入れの扱いを誤ると、経費として認められないだけでなく、税務調査の際に指摘を受けるリスクもあります。特にクリエイターや個人事業主の場合、私的な支出との境界が曖昧になりやすく、勘定科目の選択や記録方法に迷うケースが少なくありません。
そこで本記事では、差し入れを経費として計上するための基本的な考え方から、勘定科目の選び方、税務上の注意点まで、制度に沿って解説します。
差し入れは経費にできる?
差し入れは、事業との関連性が認められる場合には経費として計上できます。支出の背景・目的・相手を整理し、業務上の必要性が明確であるかで判断が分かれます。
【ケース別】差し入れの適切な勘定科目
差し入れは一律に同じ勘定科目で処理するものではなく、「誰に」「何の目的で」渡したのかによって分類が変わります。以下では、代表的なケースごとに、適切とされる勘定科目とその考え方を整理します。
① 取引先や得意先へ【接待交際費】
取引先や得意先に対する差し入れは、基本的に接待交際費として処理されます。例えば、事務所移転のお祝い、お中元・お歳暮、トラブル発生時の謝罪のための菓子折りなどが該当します。これらは、相手との関係を良好に保ち、継続的な取引を円滑に進める目的を持つ支出です。
接待交際費として認められるかどうかは、事業上の関係性が前提となります。単なる個人的な贈答ではなく、業務上の必要性があることが重要です。また、贈答の背景や目的を説明できるよう、相手先や渡した状況を記録しておくと、税務上の説明が容易になります。
なお、過度に高額な差し入れは、接待交際費としての妥当性が疑われる場合もあります。あくまで事業目的に沿った範囲で、社会通念上妥当とされる金額に収めることが、税務上のリスクを抑えるポイントです。
②打ち合わせの相手【会議費】
打ち合わせの際に提供するコーヒーやお茶、軽食、昼食弁当などは、会議費として処理されるのが一般的です。
会議費は、業務を円滑に進めるために必要な支出であり、接待や贈答とは性質が異なります。例えば、社外の相手との打ち合わせ時に提供した飲み物や、1,000円〜2,000円程度の昼食などは、会議の実施に伴う合理的な支出として扱われます。ここで重要なのは、「会議の実態があること」です。
単なる食事の提供であれば、接待交際費や私的支出と判断される可能性があります。
領収書の保管に加えて、「打ち合わせの相手」「日時」「目的」を記録しておくと、税務上の説明がしやすくなります。実務では、メモ書きや会議記録と紐づけて管理する方法が有効です。
③ 不特定多数の人へ【広告宣伝費】
展示会やイベントで来場者に配布するノベルティ、試供品などの差し入れは、広告宣伝費として処理されます。
これらは、特定の個人ではなく、不特定多数に向けて自社の認知度を高める目的で行われる支出です。広告宣伝費に該当するかどうかの判断ポイントは、「宣伝効果」があるかどうかです。例えば、自社名入りのグッズや試供品の配布は、ブランドやサービスを知ってもらうための支出として合理性があります。
一方、特定の相手だけに渡す高額な贈答品は広告宣伝費ではなく、接待交際費として扱われる可能性があります。
目的と対象の範囲を明確にし、宣伝活動としての位置付けを整理しておくことが重要です。
④従業員やスタッフへ【福利厚生費】
従業員やスタッフへの差し入れは、一定の条件を満たす場合に福利厚生費として処理されます。
例えば、残業時の夜食、現場でのスポーツドリンクの配布、社内イベント時の軽食などが代表例です。福利厚生費として認められるためには、「全従業員を対象にした支出」であることが原則です。特定の社員だけに提供される差し入れは、給与課税や接待交際費とみなされる可能性があります。
また、業務上の必要性や職場環境の改善といった目的が明確であることも重要です。例えば、夏場の現場での飲料提供などは、安全配慮や作業効率の向上という観点から合理性が認められやすい支出といえます。
税務調査で否認されないための3つのポイント
差し入れは事業上の必要性があれば経費として認められますが、記録や金額の妥当性が不十分な場合、税務調査で否認される可能性があります。ここでは、税務上のリスクを抑えるために押さえておきたい3つの基本ポイントを整理します。
領収書の裏に「詳細」をメモする
差し入れに関する支出は、領収書を保存するだけでなく、裏面や管理データに「誰に」「何の目的で」渡したのかを記録しましょう。
税務調査では、支出の事実だけでなく、その目的や事業との関連性が確認されます。簡単なメモでも、後から見返した際に判断できる状態にしておくことが、否認リスクの低減につながります。例えば、「〇〇社との打ち合わせ用」「〇〇現場のスタッフ向け」「展示会来場者配布用」など、具体的に記載しておくことで、業務上の必要性を説明しやすくなります。
金額の妥当性
差し入れの金額は、社会通念上妥当な範囲に収めましょう。
一般的には数千円から1万円程度の範囲であれば、業務上の必要な支出として扱われやすい傾向があります。一方、1回の差し入れが数十万円に及ぶ場合などは、接待の範囲を超えた贈与や給与と判断される可能性があります。
特に、従業員や特定の相手に対して高額な物品を継続的に提供している場合は、税務上の取り扱いが変わることもあります。
支出の目的と金額のバランスを意識し、事業活動として合理的と説明できる範囲に収めることが実務上の基本です。
頻度の確認
差し入れの頻度も、税務上の判断材料となります。
毎日のように同じ相手へ高額な差し入れを行っている場合、事業上の必要性よりも私的関係を重視した支出とみなされる可能性があります。例えば、定期的な現場での飲料提供など、業務上の理由が明確であれば問題になりにくいものの、特定の個人への継続的な贈答は注意が必要です。
支出の背景や目的、対象者を整理し、「事業のための支出」と説明できる状態を維持することが、税務調査への備えとなります。
クリエイターによくある「これって経費?」Q&A
差し入れの税務・会計について、実務上よくある疑問について、事業性の観点から整理します。
コンビニで買ったコーヒー1本でも経費になる?
外出先での打ち合わせ相手に提供する目的で購入したコーヒーであれば、会議費として経費計上できる可能性があります。
一方、自分が飲むためだけに購入した場合は、個人的な支出として扱われ、福利厚生費や会議費には該当しません。個人事業主の場合は、家計費として処理するのが原則です。
購入の背景が「業務に必要かどうか」で判断が分かれるため、相手や目的を明確にして記録しておくことが重要です。
コミケなどのイベントでの差し入れは?
イベント会場で、今後の仕事につながる可能性がある相手に対して行う差し入れは、接待交際費として扱われることがあります。
例えば、同業者や関係者への挨拶を兼ねた手土産などは、関係構築を目的とした支出として事業性が認められやすいでしょう。ただし、単なるファン活動や私的な交流の一環としての差し入れは、経費とは認められない可能性があります。事業目的との関連性が判断基準となります。
お酒(アルコール)の差し入れはOK?
現場の士気向上や祝事など、業務上の合理的な理由がある場合には、アルコールの差し入れも接待交際費や福利厚生費として扱われる可能性があります。
ただし、過度な量や頻繁な提供は、私的な支出や給与とみなされるリスクがあります。特に従業員への提供については、福利厚生の範囲を超えると給与課税の対象となる可能性があるため注意が必要です。
目的と状況を整理し、業務上の必要性を説明できる形で管理することが重要です。
領収書が出ない「投げ銭」や「ギフト」は?
オンラインサービスでの投げ銭やギフト、Amazonウィッシュリスト経由の支払いなど、領収書が発行されない支出でも、事業に関連するものであれば経費計上できる可能性があります。
その場合は、決済履歴、支払明細、スクリーンショットなど、支出を証明できる資料を保存しておくことが必要です。誰に対して、どのような目的で支払ったのかを記録し、事業上の合理性を説明できる状態にしておくことが、税務上のリスク管理につながります。
まとめ

差し入れは、事業活動の一環として行われる支出であれば経費計上が可能ですが、「相手」と「目的」によって適切な勘定科目の使い分けをしなければなりません。
接待交際費・福利厚生費・広告宣伝費などの基本的な区分を理解しておくことで、実務上の判断がしやすくなります。また、領収書の保存だけでなく、支出の背景や目的を記録しておくことが、税務調査への備えとなります。金額や頻度が社会通念の範囲内であるかどうかも含め、事業性を説明できる状態を維持することが大切です。
判断に迷うケースや、処理方法に不安がある場合は、早い段階で専門家に相談することで、適切な仕訳ルールを整えることができます。クリエイターや個人事業主の支出は多様であるため、実務に即したアドバイスを受けながら運用していくことが、長期的なリスク回避につながるでしょう。
差し入れの取り扱いなど税務・会計についてお悩みがある場合には、クリエイター・個人事業主の実務に詳しい田中貴久公認会計士事務所にご相談ください。
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