漫画家として活動しているけれど、「開業届は出していない」という方は少なくありません。結論から言えば、開業届を出していないと青色申告ができないなどのデメリットがあるので、すぐに開業届を出すのをおすすめします。

本記事では、開業届の基本的な役割や提出のタイミング、「出さないとどうなるの?」という疑問まで、漫画家として活動するうえで知っておきたい開業届のすべてを丁寧に解説します。

そもそも「漫画家の開業届」とは?

「開業届」とは、個人で事業を始めたことを税務署に届け出る際の書類です。漫画家としての活動を「事業」として行う場合は、この開業届を出すと「個人事業主」として認められます。

提出期限は、原則として事業開始から1か月以内と所得税法第229条に定められていますが、期限を過ぎてしまっても罰則はありません。そのため、「出していなかったから手遅れ」ではなく、気づいたタイミングで提出しても全く問題ありません。今からでも十分間に合うので、なるべく早く提出しましょう。

開業届の役割と提出時期は「いつから」?

開業届は、「自分は事業を開始した」という事実を税務署に届け出るための書類です。そのため、個人事業主として事業を始めたのを税務署に知らせるという役割を持っています。

所得税法上、開業届は1か月以内に提出するよう定められています。この1か月について事業を開始したとき、事業に係る事務所、事業所その他これらに準ずるものを設けたときから起算します。もっとも、すでに過ぎている場合でも罰則はないので、あまり厳密に考えなくても良いでしょう。

漫画家が開業届を「出さない」場合のデメリット

開業届を出していなくても、漫画家として活動する自体に違法性はありません。しかし、届け出をしないといくつかの実務的デメリットがある点に注意が必要です。

特に「節税」に関する大きな影響があるほか、事業としての信用度や活動の幅にも関わる場面があります。以下では、開業届を出していないと生じる主なデメリットを2つ紹介します。

最大のデメリット:節税効果の高い「青色申告」ができない

開業届を出していない漫画家は、確定申告の際に「青色申告」を選べません。青色申告は、最大65万円の所得控除が受けられるなど、大きな節税効果がある制度です。

青色申告を希望する場合は、「開業届」と「青色申告承認申請書」の両方を提出する必要があります。開業届を出していないと、自動的に白色申告となり、節税メリットを受けられないため、事業所得がある方は特に注意しましょう。

その他のデメリット(屋号での口座開設、補助金申請など)

開業届を出していないと、屋号(ペンネームやサークル名)での銀行口座を開設するのが難しいです。特に法人名義に近い形での銀行口座を希望する場合、開業届を提出したことがわかる資料が求められるケースが一般的です。口座の名義に屋号を入れたい場合は、開業届を提出しているかが重要なポイントです。

また、個人事業主向けの退職金制度である小規模企業共済の加入するのに開業届を提出したことがわかる資料が必要です。漫画家を引退・廃業するような場合の備えになるほか、掛け金は損金に参入できる税制上のメリットがあります。

さらに、一部の補助金・助成金の申請時にも、開業届を提出したことがわかる資料が必要です。開業してから5年という要件がある補助金に申し込む場合には、開業届提出からの期間で計算します。

今からでも間に合う!漫画家の開業届、提出手順

「開業届って難しそう」「自分にできるか不安」という漫画家の方も多いかもしれませんが、手順は意外とシンプルです。必要なのは、用紙の入手・記入・提出の3ステップだけ。e-Taxでのオンライン提出も可能なので、時間がない方にも対応できます。

ここでは、漫画家として開業届を提出するための具体的な流れを、ステップ形式でわかりやすく解説します。特に迷いやすい「職業」や「事業の概要」欄の記載例も紹介するので、このパートを読み進めれば、誰でも手続きを完了できます。

ステップ①:開業届の用紙を入手する

開業届の用紙は、主に以下の3つの方法で入手できます。まずは最も一般的なのが、国税庁のホームページからPDF形式でダウンロードする方法です。プリンターがあれば、すぐに印刷して使えます。また、最近では「freee」や「マネーフォワード」などのクラウド会計ソフトを使って、開業届をオンライン上で作成するできます。画面の案内に沿って入力するだけで簡単に作れるため、パソコン操作に慣れていない方にもおすすめです。

印刷環境がない場合は、最寄りの税務署の窓口で紙の用紙を受け取れます。職員に尋ねれば案内してもらえるため、初めての方でも安心です。

ステップ②:漫画家の開業届、具体的な「書き方」

開業届にはいくつかの記入項目がありますが、難しく考える必要はありません。職業欄には「漫画家」「文筆業」「イラストレーター」などわかりやすい職業で記載しましょう。事業の概要には、「漫画・イラストの制作、販売」 など事業の内容をこれから行うものも含めて記載します。これらの記載は経費として認められる支出にも関連するので重要です。

開業日には、継続して報酬を得るようになった日、あるいは仕事の準備を始めた日、オフィスを開設した日を記入しましょう。不明な場合は、最も妥当だと思われる日を自己判断で記載して問題ありません。

ステップ③:管轄の税務署へ提出する

開業届の提出先は、原則として自宅の住所地を管轄する税務署です。自宅以外に事業所がある場合には、事業者を管轄する税務署にも提出ができます。

なお、従来は提出したときに受領印を押した控えを受け取ることが推奨されていました。しかし、2025年より受領印を押した控えを返却する運用が廃止されたので、開業届の控えの代わりとなる手段が必要です。e-Taxを利用した場合には電子申請等証明書が正式な書類となるのですが、e-Taxで開業届を提出した後に送られてくる受信通知を代用できる場合があります。紙で提出した場合には、申告書等閲覧サービスを使って提出記録を確認したり、保有個人情報開示請求による開業届控えの再発行したりするのが現実的です。

開業届と一緒に出すべき「青色申告承認申請書」

漫画家として節税効果を最大限に活用したいのであれば、開業届と一緒に「青色申告承認申請書」の提出が非常に重要です。青色申告を利用すれば、最大65万円の特別控除を受けられるうえ、赤字繰越や家族への給与支払いなども経費として計上できます。

ただし、この申請書には提出期限があります。原則として「開業日から2か月以内」または「青色申告をしたい年の3月15日まで」のいずれか早い日が期限です。開業届と同時に出しておけば、出し忘れの心配もなく、最初から青色申告のメリットを享受できます。申請書の様式も国税庁HPからダウンロードできるので、あわせて準備しましょう。

まとめ

漫画家として活動している方が「開業届を出していない」という状況でも、心配する必要はありません。今からでも提出すれば問題なく、罰則もないため安心です。

ただし、開業届を出さないままにしておくと、節税効果の高い青色申告が利用できない、屋号で口座が作れない、小規模企業共済などに加入できないといったデメリットがあるため、早めの提出がおすすめです。

「どう書けばいいかわからない」「税務署に行く時間がない」といった不安がある方は、税理士に手続きを代行してもらえます。特に、漫画家などクリエイターの働き方に理解のある税理士であれば、開業届の提出だけでなく、今後の活動や確定申告についても的確なアドバイスが受けられます。

田中貴久公認会計士事務所事務所では、数多くの漫画家のサポートをしていますので、まずはお気軽にお問い合わせください。

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