「インボイス制度って最近よく聞くけど、自分に関係あるのかな…」
「登録しないと、仕事がもらえなくなるって本当?」

そんな不安や疑問を抱えている漫画家・クリエイターの方は、非常に多いのではないでしょうか。

この記事では、インボイス制度とは何なのか、登録をしないといけないのか、インボイス登録のメリット・デメリットなどについて解説します。

そもそもインボイス制度とは?

インボイス制度とは、消費税に関係した制度です。そのため、インボイス制度について理解するためには、まず消費税について知る必要があります。

例えば、漫画家が漫画を描いて収入を得る場合、収入には消費税分が含まれており、漫画家が収入分の消費税を預かっている状態になります。一方で、漫画の画材や参考資料などを買う際に、代金と一緒に消費税分も支払っています。

収入を得た際に預かった消費税から、漫画を描くための支払いをする際に納めた消費税を引いた残りが、国に納めるべき消費税になります。

消費税の計算において差し引く分を「仕入税額控除」といいます。

ただし、消費税を納める義務があるのは、前々年の課税売上高1,000万円超または前年1月1日から6月30日までの課税売上高1,000万円超の人、あるいは自分で課税事業者の登録をした人のいずれかのみです。

インボイス制度のキホン:消費税の仕組みが変わる

2023年10月1日からインボイス制度が始まったことで、消費税の仕組みが変わりました。

インボイス(適格請求書)とは、請求書や領収書のうち、登録番号や適用税率などの一定の要件を満たした記載がされているもので、適格請求書がなければ仕入税額控除ができなくなりました。

例えば、出版社が漫画家へ支払った原稿料について仕入税額控除をするには、漫画家から適格請求書を発行してもらう必要があります。

インボイスと認められるためにはインボイスの登録番号が必要なため、インボイス登録をする必要がありますが、インボイス登録するためには消費税の課税事業者になる必要があります。

消費税の課税事業者になった場合は、売上高に関係なく消費税を納める義務が発生するため、インボイス制度の導入によって今まで消費税を納める必要がなかった人も、消費税の納付義務が生じる場合があります。

なぜ漫画家・クリエーターに関係ある?出版社・クライアントとの関係

漫画家・クリエーターが適格請求書を発行できないと、出版社やクライアントは支払った原稿料に対して仕入税額控除ができなくなり、出版社やクライアントが納める消費税が高くなってしまいます。

したがって、インボイス登録をしていない漫画家やクリエーターとの取り引きを避け、インボイス登録をしている漫画家やクリエーターを優先する可能性があります。

インボイス登録をすべきか判断するポイント2つ

インボイス登録を検討する際のポイントは、年間の課税売上高の額と、主な取引先は誰になるのかの2点です。

それぞれについて解説します。

判断の分かれ道①:年間の課税売上高は1,000万円を超えているか?

前々年の課税売上高が1,000万円超、あるいは前年の1月1日から6月30日までの期間に課税売上高が1,000万円超の場合、消費税の課税事業者となり、消費税を納める義務があります。

課税売上高とは、消費税の発生する売上のことであり、漫画やイラストを描いて得た収入はほぼすべて課税売上高と考えて差し支えありません。

売上高1,000万円超となった場合はどちらにしても課税事業者となってしまうため、インボイス登録をして適格請求書を発行できるようにしておきましょう。

一方で、前々年および前年の1月1日から6月30日までの期間に課税売上高が1,000万円以下の場合は免税事業者となり、自分で課税事業者の登録をしない限りは消費税を納める必要はありません。

この場合、課税事業者となってインボイス登録をするかは自身で選択できるため、消費税計算の手間や、出版社など取引先の都合を考慮して、インボイス登録をするか検討しましょう。

判断の分かれ道②:主な取引先は法人(出版社など)か?個人か?

取引先が出版社などの法人の場合、取引先も課税事業者で消費税を納める義務を負っている可能性が高いため、仕入税額控除のために適格請求書の発行を求められる可能性があります。

一方で、漫画家の場合は少ないケースかもしれませんが、個人のお客様へ直接販売しているなど、課税事業者ではないお客様が中心の場合は仕入税額控除をしないため、適格請求書の発行を求められることはあまりありません。

主な取引先が出版社の場合、あるいは今後出版社との取引を増やしたいと考えている場合はインボイス登録をした方がいいでしょう。

インボイスに登録するメリット・デメリット

インボイス登録をするとどうなるのかイメージできないと、判断に困るかもしれません。

この章では、インボイス登録をした場合のメリットとデメリットについて、それぞれ解説していきます。

メリット:取引の継続や新規開拓がしやすい

出版社やクライアントとの関係が良好で、高く評価されている場合はインボイス登録をしなくてもただちに契約を切られるということは考えにくいです。

ただし、発注元の課税事業者が多くの漫画家やクリエーターと取引しているような場合や、他の漫画家やクリエーターと代替可能な作業のみを請け負っているような場合、インボイス登録をしていないよりは、登録している方が取引を継続しやすいでしょう。

また、新規に漫画の依頼を受けたい場合に、インボイス登録をしている漫画家のみに依頼するという方針のクライアントからも仕事を受けられるようになるため、取引先の新規開拓に役立ちます。

デメリット①:消費税の納税義務が発生し、手取りが減る

インボイス登録をするには消費税の課税事業者になる必要があり、消費税の納付義務が発生するため、手取りが減ります。

例えば、原則課税での計算の場合、税抜きで漫画の売上高500万円、仕入税額控除300万円とすると、消費税は20万円となり、手取りが20万円減ってしまいます。

デメリット②:確定申告などの事務負担が増える

適格請求書と認められるには、漫画家やクリエーターが発行する請求書などに、インボイスの登録番号や税率など定められた記載がされている必要があり、請求書などの記載をインボイスに対応させるための手間がかかります。

また、消費税の集計や申告を行う必要があり、経理に手間がかかります。消費税の作業は所得税よりも手間がかかり、間違えやすいため、税務初心者の方が行うのはおすすめしません。

ただし、消費税には「簡易課税制度」というものがあります。納税地の所轄税務署長に「消費税簡易課税制度選択届出書」を提出した課税事業者は、前々年の課税売上高が5,000万円以下であれば簡易課税制度を適用できます。

簡易課税制度では、売上にかかる消費税額に、事業区分ごとの「みなし仕入率」を乗じた額を、売上にかかる消費税から差し引いた額を消費税の納税額とできます。

例えば、漫画の印税や原稿料はみなし仕入率50%のため、売上にかかる消費税が50万円の時、簡易課税制度によって計算すると消費税の納税額は25万円となります。

売上にかかる消費税50万円-(売上にかかる消費税50万円×みなし仕入率50%)=25万円

ただし、自費出版した同人誌の売上にかかるみなし仕入率は70%なので、売上ごとに適用するみなし仕入率は何か判定し、売上の種類ごとに計算をする必要があります。

漫画家・クリエーターが今からできること

漫画家やクリエーターが今からできるインボイスの対応についてまとめました。

事前の準備をしておくことで、インボイスの対応がスムーズに行えるため、ぜひ参考にしてください。

まずは取引先に意向を確認する

まずは取引先に、インボイスの発行が必要かを確認しましょう。

取引先によっては特にインボイス発行が必要なかったり、別途対処法を考えていたりする場合もあるため、インボイス登録の前に取引先への確認が必要です。

登録すると決めた場合の手続き方法

インボイス登録をする場合、免税事業者は消費税課税事業者選択届出書を提出する必要があります。

しかし、経過措置として2029年9月30日までは、今まで免税事業者だった人がインボイス制度の登録のために課税事業者になる場合、インボイス登録をすれば消費税課税事業者選択届出書の提出は不要です。

登録には「e-Tax」を使うことで、スマートフォンやパソコンからインボイス登録の申請ができます。

WEBでならスマートフォンからでも申請ができ、問答形式のため、聞かれたことに答えていくだけで申請ができます。

e-Taxで申請する場合、事前にe-Tax上で「利用者識別番号」を取得し、マイナンバーカードなどの電子証明書を用意してください。

2029年9月30日までは登録日から課税事業者となり、インボイスの発行が可能です。

登録しないと決めた場合の備え

仮に登録しないと決めた場合、それでも問題ないか出版社へ確認することと、今後の活動方針について考えるようにしましょう。

例えば出版社との仕事が減ってもいいように、ファン向けコンテンツを増やすなどの対応が考えられます。

まとめ

インボイス制度によって、これまで消費税と関係がなかった漫画家やクリエーターも、消費税について考える必要がでてきました。

対象期間の課税売上高が1,000万円を超えている場合はどちらにせよ課税事業者となるため、選択の余地なくインボイス登録をするのがよいです。

課税売上高が1,000万円以下の漫画家やクリエーターは、取引先の種類や状況によってインボイス登録をするかを検討しましょう。

インボイス登録についてのお悩みは税理士に相談することで解決できますし、消費税の計算や申告は間違う危険性が高いため、税理士にお願いすることをおすすめします。

田中貴久公認会計事務所では、漫画家やクリエーターのインボイス・消費税のお悩みを解決に導きます。

税金の不安から解放され、安心して創作活動に専念できるようサポートいたしますので、ぜひお気軽にご相談ください。

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