
フリーランスのイラストレーターにとって、インボイス制度を「どうするべきか」頭の痛い問題でしょう。
本記事では、イラストレーター個々の活動状況に応じて「登録するべきか」「登録しないか」を判断するための具体的なポイントを解説します。
インボイス登録をするか悩んでいる人はぜひご一読ください。
インボイス制度とは?イラストレーターへの影響を解説
インボイス制度とは消費税に関する新しいルールです。
消費税の申告をする場合の計算では、売上にかかる消費税から、仕入や経費に関する消費税を引き(これを仕入税額控除といいます)、この差額が納付する消費税になります。
しかし、インボイス制度が導入されたことにより、仕入や経費の請求書等を「インボイス(適格請求書)」の形式で発行してもらわないと、仕入税額控除ができなくなりました。
そのため、イラストレーターに依頼をした会社から、適格請求書の発行を依頼される可能性があります。適格請求書を取得できないと、会社は仕入税額控除ができなくなり消費税の負担が大きくなるため、会社の方針によっては適格請求書を発行してもらえないイラストレーターとの取り引きを控える可能性があります。
適格請求書を発行するためにはインボイス登録をする必要があるのですが、インボイス登録は消費税の「課税事業者」しか登録できないため、これまで消費税を納める必要がなかった人も、インボイス登録のために課税事業者なれば、消費税の申告納付をしないといけなくなります。
したがって、これまで消費税の納付が免除されていたイラストレーターにとっては、インボイス制度の影響が大きいといえます。
【簡単診断】あなたはインボイス登録すべき?3つの質問でチェック
インボイスに登録するか、3つの質問にYES/NOで答えてください。
1.前々年度、または前年度1月1日から6月30日までの課税売上高が1,000万円超ですか?
2.副業でイラストレーターをしていますか?
3.取り引きの相手は会社などの法人が多いですか?
1.と3.がYESだった人はインボイス登録した方がいい人で、2.がYESだった人はインボイス登録をする必要はあまりありません。
個別に解説します。
まず1.がYESだった人はインボイスの登録を強くおすすめします。
課税売上高とは消費税が発生する売上であり、イラストレーターの収入はほぼ課税売上高と考えて差し支えありません。
前々年度、または前年度1月1日から6月30日までの課税売上高が1,000万円超の人は、どちらにしても消費税の申告納付の義務がある課税事業者となるため、インボイスの登録をしておきましょう。
2.がYESだった人について、副業でイラストレーターをしており、イラストレーターとしての収入が少ない場合、インボイス登録をしなくても収入への影響が比較的少ないため、登録をしなくてもよいでしょう。
インボイス登録のために課税事業者の登録をすると、消費税の計算にかなり手間がかかり、消費税の負担も増えます。税理士に頼む場合、数万円は費用がかかります。
イラストレーターの収入が少ない場合は、インボイス登録をしない方がメリットは比較的大きいです。
3.がYESだった人について、イラストレーターとして取り引きする相手が会社などの法人の場合は、相手も課税事業者である場合がほとんどのため、適格請求書の発行を求められる可能性が高くなります。
したがって、取り引き相手に会社が多い、または会社相手の取り引きを増やしたい場合はインボイス登録をしておいた方がよいでしょう。
ケース別:インボイス登録をすべきか解説
取引先や収入源が、企業の場合、個人や免税事業者の場合、プラットフォーム経由での収入が主な場合の3つに分けて、インボイス登録をした方がよいか、そのメリットとデメリットを解説します。
自身がどのケースに当てはまるか考えながら、それぞれの場合を把握しましょう。
ケース①:取引先が企業(課税事業者)の場合
取引先が企業であり、課税事業者が主な場合、インボイス登録をすることで取り引きが継続されやすくなり、インボイス登録をしていないイラストレーターよりは新規の取り引きを獲得しやすくなるというメリットがあります。
ただし、インボイス登録をすることで消費税の申告納税義務が発生し、消費税分だけ手取りが減る上、消費税の計算や請求書の発行など、事務負担が増えます。
インボイス登録をしない場合、企業との案件継続が難しくなったり、新規案件が獲得しにくくなったりする可能性があります。
したがって、企業からの収入割合が多い人や、企業からの案件獲得を増やしたい方はインボイス登録をするとよいでしょう。
ケース②:取引先が個人や免税事業者の場合
取引先が個人や免税事業者の場合、相手は仕入税額控除をしないため適格請求書が不要になります。
そのため、インボイス登録をしなくても取引先への影響が少なく、仕事上の問題はあまりないでしょう。
インボイス登録をすると消費税の税負担や事務負担が増えるため、取引先が個人や免税事業者の場合、インボイス登録はしなくてもよいでしょう。
ケース③:BOOTHやFANBOXなどプラットフォーム経由の収入が中心の場合
一部のプラットフォーム運営会社では、「媒介者交付特例」という制度を適用しています。媒介者交付特例とは、プラットフォームがイラストレーターと購入者の取り引きを媒介する場合に、プラットフォーム運営会社がイラストレーターの代わりに購入者に適格請求書を発行する制度です。
媒介者交付特例を適用しているプラットフォームでは、イラストレーター自身が適格請求書を発行する必要がないため、自身が利用するプラットフォームが媒介者交付特例を適用しているか確認しましょう。
インボイス制度に関してプラットフォームがイラストレーターに求める対応は様々なため、個別に確認する必要がありますが、利用するプラットフォームによってはインボイス登録をする必要はありません。
「イラストレーターがインボイス登録しない」という選択肢と注意点
インボイスに登録するために課税事業者になった場合、消費税を納めなければならず手取りが減り、消費税の申告納付の負担が増えます。
課税売上高1,000万円の基準を超えなければ、課税事業者になるかは任意のため、インボイス登録をせずに免税事業者のままでいることも選択肢の1つです。
ただし、インボイスに登録しない場合は取引先が仕入税額控除をできないため、消費税の増加分をイラストレーターへの報酬から差し引く値下げ交渉がされたり、取り引き停止や新規取り引きを敬遠されたりするリスクがあります。
イラストレーターのインボイス登録、具体的な手続き
令和11年9月30日までに免税事業者がインボイス登録をする場合、課税事業者となるための「消費税課税事業者選択届出書」を提出する必要はありません。
そのため、インボイス登録の手続きのみを解説します。
インボイス登録をする場合、書面による方法と、パソコンやスマートフォンからe-Taxを使い電子的に登録する方法の2通りがあります。
書面による場合、マイナンバーカードもしくは、本人確認書類2種類が必要です。加えて、国税庁の「適格請求書発行事業者の登録申請手続」ページから適格請求書発行事業者の登録申請書を印刷し、国税庁のフローチャートや記入例を参考に必要事項を記入します。
申請書と本人確認書類の写しを添付し、インボイス登録センターに郵送します。住所は国税庁の「インボイス登録センターのご案内」を参考にしましょう。
e-Taxによる場合、マイナンバーカードなどの電子証明書と利用者識別番号が必要です。利用者識別番号はe-Taxの「開始届出書を作成する」のページから取得できます。
パソコンで申請する場合はe-Taxのソフトをダウンロードするかe-TaxのWEB版のどちらか、スマートフォンで申請する場合はWEB版のみ利用できます。
e-Taxを開き、16桁の利用者識別番号を入力し、指示通りに必須項目を入力したあと電子署名を行い、登録申請データを送信します。
電子署名はマイナンバーカードをICカードリーダーから読み取る方法や、スマートフォンからスマホ用電子証明書を利用する方法などがあります。
まとめ

インボイスを登録するかの判断は、今後の働き方や収入に影響するため、慎重に検討しましょう。
判断の際は、フリーランスのイラストレーター事情に詳しい税理士に相談することで、個々の状況に合わせた最適なアドバイスを受けられます。
田中貴久公認会計事務所では、イラストレーターのインボイス・消費税のお悩みを解決に導きます。
インボイスや消費税の不安から解放され、安心して創作活動に専念できるようサポートいたしますので、ぜひお気軽にご相談ください。
‐免責事項‐
本サイトの内容は一般的な税務情報の提供を目的としたものであり、特定の事案に対する助言を行うものではありません。具体的な税務判断については、必ず税理士等の専門家へご相談ください。
