イラストレーターとして活動していると、「確定申告は必要なのか?」「副業でもしないといけないの?」と悩む方も多いのではないでしょうか。そこで本記事では、確定申告が必要となるボーダーラインについて、判断基準となる「所得」とは何かを整理しながら、実際に申告を行うためのステップも解説します。多様な働き方に対応できる内容となっているので、自分に当てはめて確認してみましょう。

【いくらから?】イラストレーターの確定申告が必要になる収入

確定申告の必要性は「専業」か「副業」かによって異なります。基準となるのは売上ではなく「所得(売上ー経費)」です。所得の金額が一定額を超えるかどうかで申告義務が生じます。

ケース①:専業イラストレーターの場合(所得95万円の壁)

専業でイラストレーターをしている場合、年間の所得が基礎控除額を超えると確定申告が必要です。具体的には、合計所得金額が95万円を超えると申告義務が生じます。

ここでいう「所得」とは売上から経費を差し引いた金額で、売上そのものではありません。例えば年間売上が80万円でも、経費が40万円あれば所得は40万円となり、基準を下回るため申告は不要です。一方で経費が少なく所得が基準を超える場合は必ず申告しなければなりません。専業の場合は本業の給与がないため、税務署に正しく申告することで税金の計算が行われます。

ケース②:「副業イラストレーター」の場合(所得20万円の壁)

会社員やアルバイトとして給与を受け取りつつ副業でイラスト収入を得ている場合は、基準が「20万円」です。副業の所得が20万円を超えると、確定申告が必要です。例えば給与の年末調整が済んでいても、副業分は反映されないため、自分で確定申告を行う必要があります。

注意したいのは「20万円以下なら不要」というのはあくまで所得税の話であり、住民税の申告は原則必要だという点です。副業での収入が少額だからといって放置すると、後に住民税の未申告を指摘される可能性があります。そのため、少額でも収支を正しく記録し、20万円を超えたら必ず所得税の申告をし、20万円以下でも住民税対応は欠かさないことが重要です。

イラストレーター特有の「収入」の種類と計上方法

イラストレーターの収入源は多岐にわたり、クライアントワーク・ストック収入・グッズ販売などがあります。収入ごとに正しい計上方法を理解することが大切です。

クライアントワークの報酬(制作費・コミッション)

企業や個人から依頼を受けた制作費やコミッションは「事業所得」として計上します。支払調書が発行されるケースでは、源泉徴収された金額ではなく、報酬の総額を収入として記録します。源泉徴収分は確定申告で精算できるため、天引きされていても忘れず収入計上します。請求書・入金明細と支払調書を突き合わせて管理すれば、申告時にスムーズです。

ストックイラストサイトからの収入

AdobeStockやPIXTAなどのストックサービスからの売上は、受け取ったロイヤリティを収入として計上します。海外サイトからの入金の場合、外貨で受け取った金額を受取日の為替レートで円換算する必要があります。また、海外のサービスによっては源泉徴収が行われている場合があるので、確認が重要です。プラットフォームのダッシュボードや支払明細を保存しておき、通帳の入金額と照合する形で記録すると確実です。

BOOTHやSUZURIでのグッズ販売収入

同人グッズやイラストグッズを販売する際は、売上を手数料控除前の「総額」で計上します。プラットフォーム利用料や販売手数料は「支払手数料」として経費処理します。自宅から発送する場合は、梱包材や送料も経費計上可能です。在庫管理や販売記録を正確に残すことが重要で、オンライン販売とイベント販売が混在する場合は区別して記帳するとわかりやすいでしょう。

【経費】イラストレーターの確定申告で経費にできるもの

イラストレーターが確定申告をする際に重要なのは、「どの支出が経費になるのか」を正しく理解することです。

基本的なルールは「業務に関連しているかどうか」であり、プライベートな支出は一切認められません。例えば、PCやペンタブレット、イラストソフトなどの機材やソフトウェアは代表的な経費です。また、資料用に購入する書籍・画集、美術館や展示会の入場料も制作活動に直結するなら経費に含められます。さらに、仕事部屋の家賃や光熱費、インターネット料金も、仕事で使用した分について「家事按分」という方法で経費にできます。

逆に、私的利用が主なものや、証拠となる領収書が残っていないものは認められません。経費の範囲を広くとらえつつも、業務との関連性を説明できるかどうかを意識し、領収書やメモを必ず保存することが大切です。

PC・ペンタブレット・ソフトウェアなどの機材費

イラスト制作の必須ツールであるPCやペンタブレットは、高額になりやすいため経費処理に注意が必要です。10万円以上のものは一度に全額を計上するのではなく、耐用年数に応じて少しずつ経費化する「減価償却」を行います。例えば、20万円の液タブを購入した場合は、数年にわたり分割して経費処理します。一方、10万円未満の機材や周辺機器であれば、購入した年に全額を計上可能です。ソフトウェアについては、AdobeCreativeCloudなどの月額・年額契約のサブスクリプションは支払った年の全額を経費にできます。領収書を必ず保存し、用途を明記しておくことが重要です。

資料代・書籍代・美術館の入場料など

制作のインスピレーションを得て、作画の参考とするために購入した書籍や資料は「新聞図書費」として計上できます。例えば、画集や写真集、解剖学の資料などが典型的です。また、美術館や展示会の入場料も、作品制作のリサーチを目的としているなら「取材費」として認められる可能性があります。ただし、純粋に趣味で楽しんだものは経費になりません。

支出を経費とする際は、レシートの裏に「作品◯◯の参考として購入」などとメモしておくと安心です。証拠を残すことで、税務署からの問い合わせがあった際にも説得力を持たせられます。

【やり方】副業イラストレーターの確定申告、5つのステップ

副業としてイラストレーターをしている会社員は、年末調整だけでは副業収入が精算されないため、自分で確定申告を行う必要があります。ここではその手順を5つに分けて解説します。

①給与の源泉徴収票を準備する:本業の給与情報は必須。勤務先から交付される源泉徴収票を用意し、支払金額や源泉徴収税額を確認します。

②事業(副業)の収支を計算する:副業の売上から経費を差し引いて所得を計算します。源泉徴収されている報酬は総額で収入に計上し、天引き分は「源泉所得税」として記録します。

③確定申告書を作成する:国税庁の確定申告書作成コーナーや会計ソフトを利用して、事業所得や各種控除、源泉徴収税額を入力します。住民税の徴収方法も選べるので、副業が勤務先に知られないように配慮可能です。

④源泉徴収票の内容を転記する:申告書の給与欄に源泉徴収票の金額をそのまま入力します。本業と副業を合算して最終的な税額が決まります。

⑤税務署へ提出する(e-Tax):作成した申告書はe-Taxを使えば自宅から提出可能です。電子申告にすれば還付金も早く振り込まれるメリットがあります。以上を正しく行えば、副業収入を含めた正確な税額計算ができます。

まとめ

イラストレーターが確定申告を行う際は、専業か副業かによって「所得の基準」が異なることを理解するのが第一歩です。専業なら95万円、副業なら20万円が目安となります。収入源が多様なイラストレーターは、クライアント報酬・ストック収入・グッズ販売などをもれなく計上し、関連する支出を経費として整理しましょう。

副業の場合は年末調整だけでは不十分で、自分で確定申告を行う必要があります。不安な場合や計算に自信がない場合は、税理士に相談するのが最も安心です。確定申告を正しく行えば、余計な税金を払わずに済み、安心して創作活動に集中できます。

確定申告について不安がある場合には、漫画家の確定申告を数多くサポートしている田中貴久公認会計士事務所にご相談ください。

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