イラストレーターとして活動を始める際に、最初に立ちはだかるのが「開業届ってどうやって出すの?」という疑問です。聞いたことはあっても、実際に書いたことがある人は少なく、税務署に行くイメージから難しそうに感じる方も多いでしょう。しかし実際の手続きはシンプルで、正しい流れを押さえてしまえば短時間で完了できます。

本記事では、これから個人事業主としてスタートを切るイラストレーターに向けて解説します。提出前に確認しておきたいメリットから、用紙の入手方法、具体的な記入例、提出の流れまで、順を追って解説します。この記事を読めば、開業届の全体像を理解し、安心して最初の一歩を踏み出すことができるでしょう。

提出前に再確認!開業届を出すメリット

開業届を提出する最大の目的は「個人事業主として正式に事業を開始した」と税務署に知らせることです。特に大きなメリットは、青色申告が利用できるようになる点です。

青色申告は白色申告と比べて節税効果が大きく、最大65万円の特別控除、赤字を翌年以降に繰り越せる損失繰越控除、家族への給与を経費として計上できる青色事業専従者給与など、多くの特典があります。開業届を出していなければ、これらの恩恵を受けられません。

さらに、開業届を出すことで副次的な利点も得られます。屋号つきの銀行口座を作れるようになり、取引先からの信頼度が上がるほか、小規模企業共済や補助金・助成金の申請でも「個人事業主である証明」として使えます。イラストレーターはフリーランスとして仕事を受けるケースが多いため、早めに提出することで事業運営の基盤を整えられるのです。

従来は開業届を出したときにコピーを用意しておくと、受領印を押した控えをもらえたのですが、令和7年1月から、申告書等の控えに受領印を押した控えを渡す運用が終了しました。受領印を押された控えは個人事業主名義の銀行口座開設などに使用されていましたが、今後は利用できないので、e-Taxによる申告・申請手続のデータの受信通知が代わりに利用されます。

【3ステップ】イラストレーターの開業届 提出までの全手順

開業届の提出手続きは、実はとてもシンプルです。大きく分けると以下の3ステップで完了します。

①書類を入手する
②必要事項を記入する
③税務署に提出する

「なんとなく面倒そう…」と思う方もいますが、実際には1時間程度で準備できることがほとんどです。以下では、イラストレーターの方がつまずきやすいポイントを補足しながら、各ステップを詳しく説明します。

ステップ①:開業届の用紙を入手する

まず必要なのは、開業届の用紙を手に入れることです。最も手軽なのは、国税庁の公式サイトからPDFをダウンロードし、自宅で印刷する方法です。最新版がすぐ手に入るため、間違いがありません。プリンターがない場合は、最寄りの税務署で窓口に行けば直接もらえます。

また、近年はクラウド会計ソフト(マネーフォワード、freeeなど)が「開業届作成ツール」を提供しており、質問に答えていくだけで自動でPDFが作成されるサービスもあります。経理に慣れていない人でも、こうしたツールを使えば記入の負担を減らせます。

ステップ②:必要事項を記入する

次に、用紙に必要事項を記入します。ポイントは「難しく考えすぎない」ことです。主な記入項目とイラストレーターの場合の例を挙げます。

職業欄:「イラストレーター」「デザイナー」など、実際に提供するサービス内容を簡潔に記載。

屋号欄:任意ですが、屋号つき口座を作りたい場合やブランド名を用いた活動を考えている場合に記入。例:「ツノダイラスト工房」など。

事業開始日:最初に仕事を請けた日、あるいは事業準備として機材を購入した日など、自分で区切りを決めて記入。

事業の概要:「イラスト制作、キャラクターデザイン、広告用イラスト制作」など具体的に書けば十分。

記入の際に迷いやすいのが「納税地」と「屋号」です。納税地は原則として住民票の住所を記載します。屋号は必須ではありませんが、取引先や金融機関での信用力につながるため、活動を長期的に考えているなら設定しておくのがおすすめです。

ステップ③:管轄の税務署へ提出する

記入が終わったら、いよいよ提出です。提出先は、記入した納税地(住所)を管轄する税務署です。どの税務署が自分の担当かは、国税庁の「税務署所在地検索」ページで郵便番号を入力すればすぐに調べられます。

提出方法は次の3つです。

①窓口に直接持参
②郵送
③e-Taxによるオンライン提出

従来は受領印が押された控えを受領するために窓口への持参がよく用いられていましたが、手続きのための受信データを受け取れるe-Taxを使って申請することをおすすめします。

最重要!「青色申告承認申請書」も一緒に提出しよう

開業届を出す際に忘れてはならないのが「青色申告承認申請書」です。開業届そのものは事業開始の届け出にすぎません。青色申告を利用するには、この承認申請書を税務署に提出する必要があります。これを怠ると自動的に白色申告となり、大きな節税メリットを享受できません。

青色申告の最大の魅力は、65万円(または55万円)の青色申告特別控除です。帳簿づけをきちんと行えば所得を大幅に圧縮でき、節税効果は非常に大きいと言えます。さらに、赤字を翌年以降3年間繰り越して黒字と相殺できる「損失の繰越控除」や、家族に支払う給与を経費にできる「青色事業専従者給与」など、事業を続けるうえで役立つ制度が多数あります。

提出期限は原則として「開業から2か月以内」。もし遅れると、その年は白色申告しかできず、青色申告は翌年からの適用になってしまいます。したがって、開業届と同時に必ず提出しておくことが鉄則です。イラストレーターは経費の発生が多い職業ですので、青色申告を使えるかどうかで納税額が大きく変わります。開業届とセットで、忘れずに準備しましょう。

書類作成が面倒なら、税理士に丸投げも可能

「手続きが苦手でどうしても不安」「制作活動に集中したいから事務作業に時間を割きたくない」というイラストレーターも多いでしょう。

そんなときは、税理士に依頼して丸投げするのも選択肢のひとつです。税理士は開業届や青色申告承認申請書の作成・提出を代行できるだけでなく、今後の記帳方法や節税戦略までサポートしてくれます。

また、イラストレーターの仕事は報酬形態が多様です。出版社からの原稿料、広告代理店経由の発注、クラウドソーシングでの報酬など、収入の入り方が複雑です。こうした状況に個人で対応するのは難しいため、専門知識を持つ税理士に相談すれば安心感が得られます。

税理士に依頼することで、漏れや間違いのない開業届を提出できるのはもちろん、以後の会計管理の基盤も整えられるでしょう。費用はかかりますが、節税効果や安心感を考えれば十分に元が取れる投資です。

まとめ

イラストレーターが開業届を提出する流れは、①書類を入手し、②必要事項を記入し、③管轄の税務署へ提出する、というシンプルな3ステップで完了します。難しく思えるかもしれませんが、実際にやってみると短時間で終わる手続きです。

そして、忘れてはならないのが「青色申告承認申請書」を同時に提出すること。これによって初めて、大きな節税メリットを享受できるのです。

さらに、書類作成や提出に不安がある場合は、税理士に任せるという方法もあります。専門家に相談すれば、開業のスタートから帳簿づけ、確定申告まで一貫してサポートを受けられ、安心して創作活動に打ち込むことができます。

開業届や税金問題について不安がある場合には、イラストレーターの確定申告を数多くサポートしている田中貴久公認会計士事務所にご相談ください。

‐免責事項‐
本サイトの内容は一般的な税務情報の提供を目的としたものであり、特定の事案に対する助言を行うものではありません。具体的な税務判断については、必ず税理士等の専門家へご相談ください。