多くのフリーランスのイラストレーターが確定申告をする際に、「どこまで経費にしていいの?」という疑問を感じるでしょう。

経費に認められないものを確定申告で経費として計上していると、後々に税務調査が入った際に経費計上を否認され、「追徴課税」という追加の税金を納めなければならない可能性があります。

この記事では、どこまでが経費として認められるのかという疑問にお答えします。

イラストレーターの経費、基本の考え方

イラストレーターが確定申告をする上で経費にできるかどうかの判断基準は、「イラスト制作の報酬を得るために直接必要な支出か?」になります。

例えば自宅で作業しており、水道光熱費を経費に計上したい場合は、プライベートの支出と事業に必要な支出に分ける必要があり、全額を経費に計上するのは難しいです。

プライベートと事業の支出に分けることを「家事按分」といいます。

経費計上をする上での基本の考え方について解説します。

「事業関連性」が判断基準

確定申告で経費にできるのはイラスト制作の業務上必要な支出かどうかで判断します。

業務上必要かどうかの判断は難しいのですが、下記3つを判断基準とします。

1.事業に直接関係があるか
2.事業の内容を鑑み、通常必要と認められるか
3.常識的な金額か、家事按分の仕方は合理的か

まず1.の事業に直接関係あるかについて、仕事で使う画材の購入や、打ち合わせのための交通費や飲食代は経費に計上できます。一方で、趣味で使う画材は経費計上できません。

また、プライベートな交通費や飲食代ではないとわかるように、打ち合わせの相手先名や会議の内容、目的などをメモしておくようにしましょう。

2.の事業の内容を鑑み、通常必要と認められるかについて、例えばイラスト制作がほとんど自宅での作業になるのに、遠方への旅費交通費が多額に計上されている場合、税務調査の際に質問され、相当しっかりした回答をしないと経費として認められない可能性があります。

3. の常識的な金額か家事按分の仕方は合理的かについて、例えばイラスト制作が主な業務なのに飲食代が1回で10万円かかったり、年収1,000万円で飲食代が600万円もかかっておりアンバランスな比率になっていたりするような場合、本当に事業のための飲食代なのか疑念を持たれる可能性があります。

収入に対して高すぎる比率の経費は税務調査で否認される可能性が高くなるため、本当に事業のためにかかった経費であるのであれば、合理的に説明できるように用意しておく必要があります。

また、自宅で作業しており、例えば水道光熱費を経費として計上する場合でも、全額経費としたり、プライベートと事業での按分比率を10:90にするなど極端な比率で事業用の経費としたりした場合は、経費計上が認められない可能性が高くなります。

自宅の家賃や水道光熱費を経費とする場合の家事按分は、例えば業務に使用しているスペースの面積や、使用している時間など、客観的に納得のいく基準で按分するようにしましょう。

経費を証明する「領収書」の重要性

確定申告で経費を計上する場合、必ず支払いを証明する領収書やレシートを保存しておいて、税務調査が入った際にすぐに提出できるようにしてください。

これは、本当にその経費が発生したのかを証明する必要があるためです。

もし領収書やレシートをなくしてしまった場合は、状況を詳細に記載したメモや、出金伝票を作成しておきましょう。

領収書やレシートは7年間保存してください。

【経費にできるもの一覧】イラストレーターの経費を科目別に解説

イラストレーターの活動で発生する主な経費を、勘定科目別にそれぞれ解説します。

① 消耗品費(画材、PC、ペンタブレットなど)

ペンや絵の具、用紙などの画材一式や、ペンタブレット、PCおよび周辺機器、イラスト制作ソフトなどは消耗品として経費計上できます。

PCをプライベートでも使っている場合は、使用時間割合などの合理的な基準で家事按分が必要です。

また、1つあたりの単価が10万円を超えるもので、かつ使用期間が1年を超えるものは「固定資産」となり、国で定められた「法定耐用年数」に応じて、数年に分けて「減価償却費」として計上します。

② 新聞図書費(資料、書籍、ゲーム、映画など)

イラストレーターとしてスキルアップするためのイラスト集や、イラスト作成ソフトの操作方法に関する参考書などは新聞図書費として経費計上できます。

また、イラストの参考にするために購入したゲームソフトやインターネット料金、映画鑑賞についても、事業関連性を明確に説明できれば経費として計上できる場合があります。税務調査が入る際に、明確に説明できるように事前に準備しておきましょう。

③ 通信費・水道光熱費・地代家賃(家事按分)

自宅を仕事場としている場合に、インターネットの通信費や電気代、家賃の一部を経費として計上できます。

ただし、プライベートと事業で使用している分を家事按分する必要があり、使用時間や使用面積など、合理的な基準で按分が必要です。

例えば月の家賃8万円を、作業スペースとプライベートのスペースの面積で按分する場合、40㎡のマンションで、仕事場の部屋の面積が10㎡であれば、残りの部屋の面積との比率1:3で家賃を按分します。この場合、家賃のうち2万円を経費として計上します。

④ 外注工賃・支払手数料

アシスタントを雇った場合や、一部の制作を外注している場合の費用も経費計上できます。

誰かを雇った場合や外部の人に報酬を払う場合、一部を源泉徴収して天引きし、税務署に納めなければならない場合があるため、注意しましょう。

また、Skebやpixiv、FANBOXなどのプラットフォームを通して報酬を得ていたり、投稿したイラストが仕事の獲得につながっていたりする場合、プラットフォームへの支払手数料も経費計上できます。

プラットフォームで宣伝活動としてイラストを投稿し、仕事の獲得につなげており、支払手数料を経費計上する場合は、税務調査の際に仕事獲得につながっている旨を客観的に説明できるようにしておきましょう。

判断に迷う支払いは「どこまで」経費計上OK?

経費にどこまで含めてよいか判断に迷う支出について、判断基準を解説します。

食事代(打ち合わせなど)

クライアントとの打ち合わせなど事業に関連する飲食費は、接待交際費や会議費として経費になります。

ただし、あくまで常識的な金額の範囲内であることが重要です。また、相手先や人数、何のための飲食だったのかをメモしておき、税務調査で説明できるようにしておきましょう。

衣服代・美容院代

衣服代や美容院代などは、基本的に経費に計上できません。

ただし、イラスト作成の参考として買った衣装など、プライベートと事業で明確に区別されていると説明できる衣服代は経費にできる余地があります。

なお、取材のために新調した服や、美容院代は経費計上が難しいため、確定申告の際に経費としないのが無難です。

確定申告で経費を正しく申告する手順

ここからは、おすすめの確定申告方法と、経費を含めた正しい確定申告の手順について説明します。

青色申告での確定申告がおすすめ

節税を考えているのであれば、青色申告で確定申告することをおすすめします。

青色申告では、記帳方法や申告方法、提出書類によって、10万円、55万円、65万円のいずれかの所得控除が受けられ、その分だけ税金額が少なくなります。

青色申告をする場合は、事前に「所得税の青色申告承認申請書」を提出する必要があります。期限は青色申告をする年の3月15日まで、その年の1月16日以降に開業した場合は開業から2か月以内です。

確定申告は、税務署に直接持ち込む、郵送、パソコンやスマートフォンから行う方法があります。

新しくフリーランスとして仕事を始めた場合、開業した日から1か月以内に「個人事業の開業・廃業届出書」を、納税地となる税務署へ持ち込むか、郵送またはe-Taxにより提出します。個人事業の開業・廃業届出書は国税庁のホームページからダウンロードできます。

青色申告で確定申告をしたい場合は、このタイミングで所得税の青色申告承認申請書を提出しましょう。

確定申告の手順

確定申告の準備として日々の取引を記帳します。青色申告は複式簿記、青色申告でない場合は白色申告となり、単式簿記で記帳します。

複式簿記による記帳は複雑ですが、青色申告ソフトなどの会計ソフトを使うことで入力がラクになります。申告書の作成まで行ってくれる会計ソフトもあるため、特に青色申告の場合は会計ソフトの使用をおすすめします。

確定申告の時期がきたら、1月1日から12月31日までの収入と経費を計上し、各種控除も反映させて、確定申告書を作成します。
所得控除を受ける際は、各種の控除証明書も用意してください。

確定申告書の作成は、国税庁ホームページにある「確定申告書等作成コーナー」が便利で、指示に従って必要事項を記入すれば確定申告書を作成できます。

作成した確定申告書は、納税地の税務署に持参するか、郵送またはe-Taxを使いパソコンなどから提出します。

作成したら、申告期限までに確定申告書を提出し、算定した税金を納付する必要があります。税金の納付は金融機関や税務署の窓口で納める方法のほか、クレジットカードやコンビニ納付、インターネットやATMから納める方法もあります。

まとめ

個別のケースで経費にできるか判断に迷った際は、自己判断せずに税理士に相談するのが安全です。

フリーランスのイラストレーターの働き方に詳しい税理士であれば、業界の慣習も踏まえた的確なアドバイスがもらえます。

田中貴久公認会計事務所では、イラストレーターの相談を多く受けており、税に関する適切なアドバイスが可能です。

経費のことで少しでもご不安な点がございましたら、ぜひお気軽にお問い合わせください。

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