フリーランスとして働く多くの人にとって、報酬から差し引かれる「源泉徴収」が気になる方も多いのではないでしょうか。振り込まれた金額を見て「思ったより少ない」「税金が高すぎるのでは?」と感じる方も少なくないでしょう。

これは、クライアントが報酬を支払う際に所得税を天引きし、国へ納付する仕組みがあるからです。一見すると損をしているように思える源泉徴収ですが、確定申告を正しく行えば払いすぎた税金は還付金として戻ってきます。

本記事では、源泉徴収の基本から還付金のシミュレーション、そして実際に取り戻す方法までを徹底解説します。

そもそもフリーランスの「源泉徴収」とは?

源泉徴収とは、クライアントがフリーランスに報酬を支払う際に、あらかじめ所得税を差し引いて国へ納める制度を指します。会社員であれば給与から自動的に源泉徴収されますが、フリーランスの場合も一定の業務に対して同様の仕組みが適用されます。

例えば、原稿料や講演料、デザイン料などの報酬を受け取る際です。源泉徴収される額は1回の支払いが100万円未満である場合は10.21%、100万円以上である場合には20.42%で計算されます。

これは「前払いの税金」にあたるため、実際の所得税額と一致するとは限りません。経費や各種控除を反映した最終的な税額は確定申告で算定され、払い過ぎがあれば還付されます。

つまり、源泉徴収は「徴収されて終わり」ではなく、あくまで一時的な処理である点を理解しておくことが重要です。

【還付金シミュレーション】あなたはいくら戻ってくる?

源泉徴収された税金は、確定申告を行うことで還付金として取り戻せる可能性があります。仕組みを理解するには、収入・経費・控除を反映した計算が不可欠です。ここでは年収200万円、400万円、600万円の3パターンで簡易シミュレーションを行います。

年収200万円
・天引きされた源泉徴収税:204,200円
・課税所得:430,000円(経費や控除を差し引いた金額)
・本来徴収されるべき所得税額:21,951円
・還付見込額:204,200円 – 21,951円 = 182,249円

年収400万円
・天引きされた源泉徴収税:408,400円
・課税所得:1,970,000円(経費や控除を差し引いた金額)
・本来徴収されるべき所得税額:101,589円
・還付見込額:408,400円 – 101,589円 = 306,811円

年収600万円
・天引きされた源泉徴収税:612,600円
・課税所得:3,670,000円(経費や控除を差し引いた金額)
・本来徴収されるべき所得税額:312,936円
・還付見込額:612,600円 – 312,936円 = 299,664円

なお、実務では源泉徴収税額は支払ごとに計算して1円未満を切り捨てるため、年間の合計額はここで示した「年収×10.21%」による概算値と数百円程度ずれる場合があります。

このように、経費や控除を反映させることで還付額は大きく変わります。確定申告はフリーランスの収入を増やすためにも、欠かせない作業といえます。

【やり方】還付金を受け取るための確定申告

源泉徴収で払いすぎた税金を取り戻すには「還付申告」と呼ばれる確定申告を行う必要があります。手順は大きく分けて3つです。

1.必要書類を準備する
2.確定申告書を作成する
3.税務署へ提出する

なお、還付申告は申告期限の翌年以降5年間まで可能で、過去に見落とした場合でも手続きすれば取り戻せます。

必要書類を準備する(支払調書など)

還付申告をスムーズに進めるためには、まず必要書類を整えることが重要です。なかでももっとも大切なのがクライアントから交付される「支払調書」です。

支払調書には、1年間で受け取った報酬の金額と、そこから天引きされた源泉徴収税額が記載されており、確定申告書に正確な数値を転記するための基礎資料となります。

なお、支払調書の発行は義務ではないため、必ずしもすべてのクライアントから入手できるとは限りません。その場合は、振込明細や契約書、会計ソフトの売上データを代替資料として利用してください。

また、経費計上のために領収書やレシート、クレジットカードの明細なども併せて保存しておく必要があります。これらを整理しておくことで、後の作業が格段に効率化され、申告内容の正確性も担保されます。

確定申告書を作成する(源泉徴収税額の記入)

書類を揃えたら、次は確定申告書の作成に移ります。作成の際に特に注意したいのが「源泉徴収税額」の記入です。支払調書や振込明細を確認し、源泉徴収された正確な金額を漏れなく申告書に転記する必要があります。

金額を少なく記載してしまうと、本来受け取れるはずの還付金が減額されるおそれがあります。逆に多く記載すれば税務署から訂正を求められる可能性もあるため、細心の注意を払いましょう。

なお、国税庁の「確定申告書等作成コーナー」や市販の会計ソフトを使えば、画面の指示にしたがって入力するだけで自動的に税額が計算され、源泉徴収税額も反映されます。

確定申告に不安がある場合には、ツールを活用することで誤りを防ぎましょう。

申告書を提出する(e-Taxがおすすめ)

確定申告書が完成したら、最後に税務署へ提出します。提出方法には、紙の申告書を税務署へ持参または郵送する方法と、オンラインで完結するe-Tax(電子申告)の利用があります。

特におすすめなのはe-Taxで、マイナンバーカードやID・パスワード方式を利用すれば、自宅から24時間いつでも申告が可能です。さらに、e-Tax経由での提出は処理が早く、還付金の振込も紙提出に比べてスピーディーに行われるのが大きなメリットです。

加えて、添付書類の一部省略が認められるなど、手間の軽減効果もあります。スマートフォンやタブレットにも対応しているため、外出先でも申告が完了できる点はフリーランスにとって非常に便利といえるでしょう。

還付を早く受け取りたい方や効率的に手続きを進めたい方は、積極的にe-Taxを活用するのがおすすめです。

源泉徴収と確定申告に関するQ&A

フリーランスにとって「源泉徴収」と「確定申告」は密接に関わっていますが、実際の手続きや取り扱いについては疑問を持つ方も多いでしょう。

ここでは特に多く寄せられる質問をQ&A形式で解説します。

Q1.確定申告しないと、源泉徴収された税金はどうなりますか?

確定申告を行わなければ、源泉徴収で天引きされた税金はそのまま国庫に納付され、戻ってくることはありません。

例えば、年収200万円の場合、経費50万円・社会保険料控除12万円・基礎控除95万円と仮定すると、課税所得は43万円、所得税は約21,500円にとどまります。

しかし、年間の源泉徴収が約204,200円(年収×10.21%想定)あるなら、差額の約182,700円(約18.3万円)が本来は還付されるべき金額です。これは、確定申告(還付申告)をしない限り返還されず、結果として損をしてしまいます。

逆に、所得が多く追加納税が必要なケースでも、確定申告を行わなければ後日税務署から指摘を受け、延滞税や加算税が課される可能性があります。したがって、源泉徴収があるフリーランスは必ず確定申告を行うことが大切です。

Q2.クライアントから支払調書がもらえない場合は?

支払調書は、クライアント側に発行義務がある書類ではありません。そのため、すべての取引先から必ずしも受け取れるわけではないのが実情です。

支払調書がなくても還付を受けることは可能で、入金明細や銀行通帳の記録、請求書の控えなどをもとに収入額と源泉徴収額を集計します。

また、会計ソフトを利用している場合は、年間の売上レポートを出力すれば証拠資料として活用することもできます。

税務署としては「正しい収入と源泉徴収額が明らかにされているか」を重視しているため、支払調書の有無にこだわる必要はありません。ただし、大きな取引で源泉徴収が発生している場合は、できるだけクライアントに依頼して発行してもらった方がスムーズに申告できます。

まとめ

フリーランスが報酬を受け取る際に天引きされる源泉徴収は、一見すると負担に感じられますが、確定申告を行えば過払い分は還付金として戻ってきます。特に、経費をしっかり計上することで課税所得を減らし、結果として還付額を増やすことが可能です。

必要書類の準備やe-Taxの活用など手続きはシンプルなため、恐れることはありません。また、還付申告は5年間まではさかのぼれるため、過去に未申告の年があるのなら見直してみるといいでしょう。

もし「経費になるか判断がつかない」「税金が高すぎる」と感じる場合は、フリーランスに精通した税理士へ相談するのがおすすめです。

田中貴久公認会計士事務所はクリエイターをはじめとしたフリーランスの確定申告に強みを持っているので、ぜひお気軽にお問い合わせください。

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