同人誌を制作・販売していると、「どこまで経費にできるのかな?」と気になるのではないでしょうか。印刷代やイベント参加費はもちろん、作業場の家賃や通信費、資料代なども経費にできるケースがあります。

ただし、すべてを経費にできるわけではなく、事業としての関連性や証拠書類の有無がポイントです。

そこで本記事では、同人作家が確定申告で損をしないために、押さえておくべき経費の考え方と具体例をわかりやすく解説します。

同人作家の経費、基本の考え方

同人活動の支出が経費になるかは、収入(売上)を得るために直接必要だったかによって判断します。趣味目的の支出や生活費は入れられませんが、制作・販売・管理に要した支出は幅広く対象になり得ます。まずは次の2点を把握しましょう。

・事業関連性があるか:作品の制作・頒布・宣伝に必要だった事実を説明できることが必要。私費と線引きできるようにしましょう。
・証拠の保存:領収書・レシート・明細・発注メールなど証拠書類を必ず残しましょう。

この大原則を押さえたうえで、それぞれの内容について確認しましょう。

「事業関連性」が判断基準

同人作家が経費を計上するうえで最も重要なのが「事業関連性」です。

たとえば、作品制作のために購入した画材やペン、ソフトウェアの利用料は経費になります。しかし、趣味で描いたイラストのために使った画材は経費にはできません。つまり「収入を得る活動のために必要だったか」が基準です。

また、パソコンやタブレットの購入も、創作活動や原稿制作に利用している場合は経費になりますが、プライベート利用が大半であれば全額を経費とするのは不適切です。この場合は、業務利用とプライベート利用の割合を計算して、業務利用をしている分を按分して計上してください。

経費を証明する「領収書」の重要性

経費に計上するには、支払いを証明する書類が欠かせません。基本となるのは領収書やレシートですが、ネット購入の場合は注文履歴やクレジットカード明細も有効です。証拠が残らない支出は、税務署から否認される可能性が高まります。

さらに、領収書には支払先や日付、金額が明記されている必要があります。同人誌即売会の参加費や交通費を経費にする際も、きちんと領収書や記録を残しておきましょう。

特に交通費はICカード利用履歴や経路検索の記録を添えて保存しておくと安心です。証拠を残す習慣を徹底することで、確定申告でのトラブルを避けられるでしょう。

【経費一覧】同人作家の経費にできるもの

同人作家の経費は大きく「制作」「販売・イベント」「作業環境」「調査・研究」の4系統に整理すると漏れが防げます。

各経費の例を紹介するので参考にしてください。

①制作に関する経費(印刷代・画材費など)

費用 注意点
仕入高/材料費(売上原価) オンデマンド/オフセット印刷、
製本・断裁、用紙、
表紙PP・箔押し、色校正
・売上原価で処理
・在庫は期末棚卸で資産
・見積・請求・納品書を保存
外注工賃 表紙デザイン、装丁、ロゴ、イラスト、
DTP/入稿データ、翻訳、校正
・個人への支払は源泉徴収の要否を確認
・請求の証憑を保存
消耗品費 原稿用紙、トーン、ペン先、インク、
筆・マーカー、画用紙、小型機材
・事業関連性を用途メモで補強
・高額・長期使用は資産判定を検討
ソフトウェア/消耗品費 CLIPSTUDIO、AdobeCC、
フォント/素材サイト、プラグイン
・サブスクは期間/私用按分
・買切り20万円超は無形固定資産で償却
支払手数料 入稿手数料、再入稿手数料、
決済手数料、データ転送有料サービス
・外注工賃との線引きを毎期一貫
・明細・メール控えを保存
色校正費
(外注工賃/材料費のどちらか)
本機校正、色補正、
プロファイル調整、試し刷り
・科目の置き場を固定
・制作直結の根拠メールや設定記録を添付
サンプル・試作費
(材料費/広告宣伝費)
テスト印刷、見本誌、
用紙・加工サンプル
・品質検証=材料費/配布宣伝=広告宣伝費
・過大試作は否認リスクあり

②販売・イベントに関する経費(参加費・交通費など)

費用 注意点
広告宣伝費 告知バナー/動画、SNS広告、チラシ、
特設サイト制作
・目的・成果の証憑を保存
・印刷原価と混在させない(科目運用を統一)
支払手数料 プラットフォーム/委託販売手数料、
決済/振込手数料
・料率と月次明細を保存
・売上控除か費用計上かを毎期一貫
荷造運賃 送料、宅配搬入、
梱包材(封筒/OPP袋/緩衝材/ラベル/テープ等)
・梱包材は荷造運賃or消耗品費のどちらかに統一
・伝票・追跡履歴を保存
旅費交通費 会場往復、宿泊、
駐車場、搬入出交通
・区間・IC履歴・宿泊領収書を保存
・同行者分は業務関連性を明記

③作業環境に関する経費(家賃・通信費など)

費用 注意点
地代家賃 自宅家賃の事業按分、
コワーキング/レンタルオフィス
・按分根拠(面積/時間)をメモ
・契約書・請求書を保存
水道光熱費 電気・ガス・水道 ・業務利用割合で按分計上
・検針票・請求書を時系列保管
通信費 固定/モバイル回線、クラウド/ストレージ、
オンライン会議・転送
・期間按分・私用按分を徹底
・名義と利用実態の整合を取る
工具器具備品/減価償却費 デスク、チェア、ラック、
照明、空調小型機器
・10万円未満=消耗品
・10~20万円=一括償却(3年)
・20万円超=資産→償却

④調査・研究に関する経費(資料代など)

費用 注意点
新聞図書費 商業漫画/画集/写真集/設定資料、
技法書、雑誌、統計資料
・作品との関連メモ(作品名/用途)を添付
・領収書を保存
旅費交通費 取材旅行、資料撮影ロケ、
博物館/図書館巡りの交通費
・行程メモ・経路を記録
・私用混在は按分
研修費/教育訓練費 セミナー受講料、オンライン講座、
ウェビナー
・カリキュラムと領収書を保存
・娯楽性が高い講座は否認リスクあり
データ購入費/支払手数料 写真・3Dモデル・
音源/効果音・フォント等の単品購入
・ライセンス(商用可否/再配布不可)の証憑を保存
・用途を明記

これらの経費を漏らさず計上することが節税につながります。

【最重要】同人誌の「在庫」は経費にならない?

税務は売上原価(販売に対応する原価)だけを当期の費用にできます。印刷しただけで売れていない在庫は、期末時点では資産として残す扱いになり、当期の経費にはなりません。

そのため、期首在庫0冊で今期に印刷代50万円を支払い、年内に30万円分が売れ、20万円分が在庫として残った場合には、30万円分のみが経費計上できます。残った20万円は翌期以降、販売された時点で経費として扱うことが可能です。

なお、売上原価は次の計算式によって求められます。

計算式:期首棚卸高+当期仕入(印刷、製本、外注等の原価)-期末棚卸高=売上原価

実務のコツとしては、在庫数/単価/内訳(版・サイズ・頒布価格)を台帳化することです。印刷所の請求書と入庫数、販売数の推移が追えるようしておくようにしましょう。

また、オンデマンドによる小刻み発注で過剰在庫を避けたり、増刷の意思決定は販売速度データに基づいて行ったりすることで、在庫を持ちすぎないようにすることが重要です。

経費を正しく申告して、賢く節税しよう

同人作家にとって、経費を正しく計上することは節税の第一歩です。経費として認められる支出を漏れなく申告すれば、余計な税金を払わずに済みます。

逆に、認められない支出を混ぜると税務署に否認されるリスクが高まり、追徴課税など思わぬ不利益を被る可能性があります。

効果的な節税のために意識すべきポイントは次のとおりです。

・生活費と仕事の支出を明確に区別する
自宅家賃や光熱費は「仕事に使った割合」で按分する必要があります。プライベート部分まで含めると否認されるかもしれません。

・証拠資料を必ず残す
領収書やレシートはもちろん、イベント参加に関するメールやチケットも保存しておくと安心です。

・青色申告を選択する
事業所得として活動している場合、青色申告を選択すれば最大65万円の控除が利用でき、節税効果が大きくなります。

同人活動を事業として続けていくなら、経費管理は創作と同じくらい大切な作業です。日々の支出をしっかり記録し証拠を残す習慣をつけることで、確定申告時にスムーズに対応でき、余計な税金を払わずに済みます。

まとめ

同人作家にとって確定申告は避けて通れない大切な手続きです。印刷代やイベント参加費といった明らかな経費だけでなく、家賃や通信費、資料代なども事業関連性があれば経費にできます。

ただし、在庫の扱いや生活費との按分など、気をつけるべきことを見落とすと、思わぬ課税リスクや余計な税負担につながりかねません。

「どこまで経費にできるのかわからない」「在庫や青色申告の処理に自信がない」という方は、同人活動に理解のある税理士に相談するのが安心です。専門家に依頼することで、正しい経費計上や節税策を実践でき、創作に集中できる環境を整えられます。

田中貴久公認会計士事務所は同人作家などクリエイターの確定申告に強みを持っているので、不安なことがある場合にはお気軽にご相談ください。

‐免責事項‐
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