
VRChatを通じてアバターやワールド、アイテムなどを制作・販売するクリエイターが増えています。しかし、得た収益は「ただの副収入」と思い込み、確定申告を怠ってしまう人も少なくありません。
そこでこの記事では、VRChatクリエイターが押さえておくべき確定申告の基礎知識から、売上・経費の計上方法、記帳時の注意点までを解説します。
VRChatで得た収入は確定申告が必要?
VRChatで得た収入が「確定申告の対象になるか」は、副業か本業か、所得区分が事業所得か雑所得かによって異なります。
まず、会社員が副業としてVRChatで収益を得ている場合、年間の所得(収入-経費)が20万円を超えると確定申告が必要です。
一方、フリーランスや個人事業主として活動している場合、95万円以上を超えると確定申告が必要となります。
さらに重要なのが所得区分です。
継続的に作品を販売している場合や、依頼制作などで営利性が認められる場合は「事業所得」として扱われます。一方で、趣味の延長でたまに作品を出品しているだけの場合は「雑所得」と判断されるケースがあります。
いずれにせよ、売上や経費を正しく記帳していないと、申告漏れや過少申告として追徴課税のリスクが生じるため注意が必要です。VRChat内で得た収益も、すべて課税対象になることを覚えておきましょう。
【収入別】VRChatで得た売上の計上方法
VRChatの収益源は多岐にわたります。アバターや衣装などの販売、依頼制作、サブスク収入など、収益の種類によって計上方法が異なる点に注意が必要です。ここでは、主な3パターンに分けて、それぞれの扱い方を解説します。
アバターや衣装、アクセサリーを販売した場合
自作アバターや衣装、アクセサリーなどをBOOTHやBOOTH通貨、VRChat内のイベントで販売している場合、営利目的で継続的に行っているかが判断ポイントです。
作品の販売数が多く、SNSや公式サイトを通じてプロモーションを行っているようなケースでは、「事業所得」として計上するのが一般的です。一方で、「趣味の延長として年に数点のみ販売」「制作コストの回収程度」という場合は、「雑所得」扱いになる可能性があります。
ただし、雑所得だからといって経費を無視してよいわけではありません。制作にかかった素材費やソフト代は、売上との対応関係を示せば経費計上が可能です。
また、アセット販売サイトからの入金時に手数料が差し引かれている場合でも、計上すべき売上は「手数料控除前の総額」である点に注意しましょう。差し引かれている手数料は「支払手数料」として処理することで、正確な損益計算ができます。
依頼があり制作した場合
クライアントやユーザーから依頼を受けてアバターやワールド、ギミックを制作する場合は、原則として「事業所得」に分類されます。報酬が発生し、制作を継続的に請け負っている場合は、営利性と独立性が認められるためです。
たとえVRChat内での活動であっても、取引が定期的に行われていれば「個人事業としての収入」とみなされます。一方で、一度きりの知人からの依頼やコラボ制作など、継続性が乏しい場合は「雑所得」に該当することもあります。判断基準は、「取引の反復性」「営利目的の有無」「業務としての整備状況」の3点です。
請負契約で報酬を受け取る場合、請求書の発行・納品データの保存・支払証明(送金履歴など)を残しておくことが重要です。また、PayPalなどを経由する場合には、為替差損益や送金手数料も発生するため、経費処理とあわせて記録しておきましょう。
サブスクリプション収入を得た場合
VRChatのCreator EconomyやPatreon、FANBOXなどを通じて定期的に収入を得ている場合は、高い事業所得とみなされるケースがほとんどです。月額課金制のサブスクは、ファンや支援者から安定的な収益が得られる反面、帳簿や契約内容の管理も求められます。
ただし、月額収入が数千円程度で活動も不定期の場合は、税務署の判断で「雑所得」とされることもあります。この線引きは、事業規模・活動頻度・帳簿の整備状況などを総合的に見て決まるため、どちらの扱いになるか迷う場合は税理士に確認するのが安心です。
なお、海外サービスを利用している場合、外貨建て収入となる点に注意が必要です。入金時の為替レートをもとに日本円へ換算し、手数料を控除して売上と経費を分けて記帳します。特にCreator Economyでは、ドル建てで支払いが行われることが多いため、換算レートの記録を忘れないようにしましょう。
VRChat活動で経費として計上できる支出の具体例
VRChatでの活動にも、経費として計上できる支出は多くあります。
制作・販売に直接関わる費用はもちろん、自宅での作業に関わる通信費や光熱費の一部も、業務割合に応じて経費計上が可能です。
ここからは、「制作に必要な支出」と「按分が必要な支出」に分けて紹介します。
制作に必要な支出
VRChat向けのアバター制作やワールド構築に使う機材、ソフトウェアなどは、事業に直接必要な経費として計上できます。たとえば、以下のような支出です。
| 支出内容 | 勘定科目 | 備考 |
|---|---|---|
| VRヘッドセット・トラッカー | 器具備品費 | 高額の場合は減価償却対象 |
| 制作用PC・GPU | 器具備品費/消耗品費 | 10万円未満なら消耗品費処理可 |
| Unity・Blenderなどの有料ライセンス | ソフトウェア使用料 | 年額契約もOK |
| 3Dアセット・マテリアル購入費 | 仕入/消耗品費 | BOOTHやSketchfabなど |
| サーバー利用料・クラウドストレージ | 通信費 | Google DriveやDropbox等 |
経費にできるかの判断は、業務遂行に必要かを基準にしてください。趣味目的や個人使用が強い支出は経費にならないため、領収書の用途メモを残しておきましょう。また、高額なPCやVR機器は一括で費用計上せず、「減価償却資産」として複数年に分けて処理するのが原則です。
業務比率に応じて按分が必要な支出
自宅を作業場として使用している場合、家賃・光熱費・通信費などの支出は、業務で使った割合に応じて按分して経費にできます。たとえば、作業時間が1日のうち5時間、生活時間が残り19時間であれば、1日の約20%を経費とするイメージです。
| 支出項目 | 勘定科目 | 按分の目安 |
|---|---|---|
| 家賃 | 地代家賃 | 作業スペース面積比で算出 |
| 電気・水道・ガス代 | 水道光熱費 | 作業時間や機器使用時間で按分 |
| インターネット・携帯通信費 | 通信費 | 仕事用途の割合を推定して計算 |
なお、私的利用と業務利用が混在する支出は、合理的な基準をもとに按分率を決め、記録を残すことが大切です。「なんとなく半分」といった曖昧な計算は税務調査で否認されるリスクがあるため、月ごとに使用時間のメモや作業日誌を付けておくと安心です。
VRChatクリエイターが確定申告に向けた記帳の際に注意すべきポイント
VRChatでの活動を通じて得た収入には、海外サービスや外貨建ての取引が多く含まれます。Creator EconomyやPatreon、BOOTH(PayPal経由)などを利用している場合、為替レートや手数料の処理を正確に記帳することが大切です。
とくにドル建て収入は、日本円に換算してから帳簿に記録しなければならないため、日々の取引記録を残しておくことが重要です。
取引が発生した日のレートで日本円へ換算する
外貨で得た収入は、原則として「取引が発生した日の為替レート」を使って日本円に換算します。たとえば、Patreonで月初に10ドルの支援を受けた場合、その日の為替レート(例:1ドル=150円)をもとに「1,500円の売上」として帳簿に記載します。
換算に使うレートは、国税庁が公表する為替レートや主要金融機関(みずほ銀行、三菱UFJ銀行など)の公表値を利用するのが基本です。レートの出典元や日付を記録しておくことで、後から税務署に確認を求められても説明しやすくなります。
また、取引の都度記録するのが難しい場合は、月末の平均レートを使っても差し支えありません。ただし、年度を通して一貫した方法で処理することが求められるため、途中で計算基準を変えることはできません。
為替・決済手数料の計上を忘れないようにする
海外サービスや決済代行を利用する場合は、手数料の処理方法にも注意が必要です。
PayPalやBOOTH、BOOTH通貨などの決済プラットフォームでは、送金時に数%の手数料や為替手数料が差し引かれることがあります。この場合、売上として記録するのは「手数料控除前の総額」で、差し引かれた金額は「支払手数料」として経費処理します。
たとえば、Patreonで10ドル(1,500円)の支援を受け、手数料が5%(75円)差し引かれて振り込まれた場合、帳簿上は以下のように記載します。
売上:1,500円(手数料控除前の金額)
支払手数料:75円(経費)
実際の入金額:1,425円
このように処理することで、正確な損益を計算でき、収益の過少申告を防げます。なお、PayPalの明細画面には「手数料」と「入金額」の両方が表示されるため、スクリーンショットや明細PDFを証拠書類として保存しておくと安心です。
VRChatクリエイターの確定申告の手順
実際にVRChatクリエイターが確定申告を行う際の流れを整理しておきましょう。基本的な手順は、「書類整理→会計入力→申告提出」という3ステップです。
必要書類の整理
売上明細、PayPal決済履歴、領収書、レシート、各プラットフォームの支払いレポートをまとめます。海外サイトの場合、明細が英語でも問題ありませんが、取引内容がわかるように補足メモを添えると安心です。
会計ソフトへの入力
売上と経費を日付順に記帳します。freee、マネーフォワード、弥生会計などのクラウド会計ソフトを使えば、為替レート換算や手数料処理も自動化しやすくなります。
e-Taxまたは書面での提出
確定申告書を作成し、マイナンバーカード方式やID・パスワード方式でe-Taxから送信します。紙で提出する場合は、税務署窓口や郵送も可能です。提出期限は毎年3月15日までなので、早めの準備を心がけましょう。
また、青色申告に切り替えることで最大65万円の特別控除が受けられる場合があります。将来的に活動を本格化させたい方は、今のうちから青色申告を検討しておくことをおすすめします。
まとめ

VRChatでの収益は、所得が一定額(副業20万円、本業95万円)を超えれば確定申告が必要です。所得区分は活動実態に応じて「事業所得」か「雑所得」に分かれます。
なお、VR機器やソフトウェア購入費、通信費などは経費計上が可能です。適切な記帳により、少しでも税負担を軽減しましょう。
確定申告に不安がある方は、VR業界に詳しい税理士や会計事務所に相談するのがおすすめです。田中貴久公認会計士事務所なら、VR業界はもちろん、クリエイターの支援実績が豊富です。税務のことでお困りの際は、ぜひお気軽にご相談ください。
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