
個人事業主やクリエイターの課税売上高が大きくなると、消費税の課税事業者に該当し、「消費税課税事業者届出書」の提出が必要になることがあります。ただし、インボイス登録によって課税事業者となる場合など、届出書の提出が不要なケースもあります。
消費税の納税義務は、単純な「今年の売上」だけで決まるわけではありません。原則として前々年の「基準期間」の課税売上高を確認し、基準期間だけでは免税事業者となる場合でも、前年上半期の「特定期間」によって課税事業者となることがあります。また、インボイス登録によって課税事業者となる場合は、必要な手続きが異なります。
本記事では、消費税課税事業者届出書を提出するケースや期限、課税事業者選択届出書との違いについて、個人事業主・クリエイター向けに解説します。
消費税課税事業者届出書とは?
消費税課税事業者届出書の概要について、確認していきましょう。
消費税課税事業者届出書は課税事業者になったことを届け出る書類
消費税課税事業者届出書は、基準期間や特定期間の課税売上高が1,000万円を超えるなど、法律上の要件によって課税事業者となった場合に、その事実を税務署へ届け出るための書類です。
売上高1,000万円の基準となる期間は、個人事業主の場合、原則として前々年です。基準期間の課税売上高が1,000万円を超えて課税事業者になる場合は「消費税課税事業者届出書(基準期間用)」を使用します。
一方、後述する特定期間の判定によって課税事業者になる場合は「消費税課税事業者届出書(特定期間用)」を提出します。提出先はいずれも納税地を所轄する税務署です。
個人事業主は「前々年の売上」を確認する
個人事業主が消費税の課税事業者に該当するか確認するときは、まず前々年の課税売上高を確認します。
たとえば2026年分について判定する場合、基準期間は2024年です。2025年分であれば、2023年分が基準期間となります。
そのため、2026年に売上が1,000万円を超えたら、その時点ですぐ2026年分の課税事業者になるわけではありません。2026年の課税売上高は、原則として2028年分の判定に影響します。
ただし、前年上半期の特定期間やインボイス登録などによって課税事業者となる場合もあるため、前々年の売上だけで判断しないことが重要です。
個人事業主が消費税課税事業者届出書を提出するケース
個人事業主が消費税課税事業者届出書を提出するケースを確認しましょう。
まずは「基準期間」の課税売上高を確認する
個人事業主の基準期間は、原則としてその年の前々年です。基準期間の課税売上高が1,000万円を超えると、原則としてその年は消費税の課税事業者になります。
たとえば2026年分については、2024年の課税売上高を確認します。2024年の課税売上高が1,000万円を超えていれば、2026年は課税事業者となり、「消費税課税事業者届出書(基準期間用)」を提出します。
なお、判定するのは「所得」ではなく「課税売上高」です。経費を差し引いた利益が1,000万円以下でも、課税売上高が1,000万円を超えていれば対象となります。
基準期間が1,000万円以下でも「特定期間」を確認する
基準期間の課税売上高が1,000万円以下でも、そこで判定を終えてはいけません。個人事業主には「特定期間」による判定もあるためです。
個人事業主の特定期間は、原則として前年の1月1日から6月30日までです。たとえば2026年分なら、2025年1月1日から6月30日までの課税売上高を確認します。この期間の課税売上高が1,000万円を超える場合も、2026年は課税事業者となります。該当する場合は「消費税課税事業者届出書(特定期間用)」を提出します。
また、特定期間における1,000万円の判定では、一定の場合、課税売上高に代えて給与等支払額の合計額を使用することもできます。つまり、特定期間の課税売上高が1,000万円を超えていても、給与等支払額による判定を選択できるケースがあります。そのため、前年上半期に売上が急増した場合は、売上だけでなく給与等支払額も確認したうえで判定しましょう。
クリエイターの「課税売上高」には何が含まれる?
クリエイターの場合、通常の制作や業務委託による収入の多くは課税売上高に含まれます。
具体的には、イラスト制作料、動画編集料、デザイン料、原稿料・ライティング報酬、楽曲制作料・販売収入などです。ただし、取引内容や取引先の所在地などによって消費税の課税関係が異なるため、すべての売上が課税売上高になるわけではありません。
一方で、すべての入金が課税売上高になるとは限りません。消費税の非課税取引や不課税取引などは課税売上高に含まれないため、「年間売上=課税売上高」とは限らない点に注意しましょう。
BOOTHやFANBOX、Skeb、クラウドソーシングなど複数の収入源を利用している場合は、取引内容や取引先によって消費税の扱いが異なる場合があるため、会計ソフト上でも取引ごとの税区分を整理しておくと、課税売上高を確認しやすくなります。
インボイス登録している個人事業主は届出書の提出が必要?
インボイス発行事業者として登録している個人事業主は、「消費税課税事業者届出書」を別途提出する必要はあるのでしょうか。
インボイス発行事業者は、基準期間の課税売上高が1,000万円以下でも課税事業者となります。そのため、「消費税課税事業者届出書」を提出する必要はありません。
インボイス登録すると、基準期間の売上に関係なく課税事業者になる
適格請求書発行事業者として登録を受けると、基準期間の課税売上高が1,000万円以下であっても課税事業者となります。
インボイス発行事業者として登録している期間は、基準期間や特定期間の課税売上高が1,000万円以下であっても、免税事業者には戻りません。
たとえば、年間の課税売上高が500万円や800万円のクリエイターでも、インボイス発行事業者として登録していれば消費税の申告・納税が必要です。
そのため、インボイス登録によって課税事業者になった人は、さらに「消費税課税事業者届出書」を提出して課税事業者になる手続きを重ねて行う必要はありません。現在の経過措置によって免税事業者からインボイス登録する場合も、登録申請によって課税事業者となる仕組みになっています。
「消費税課税事業者届出書」と「適格請求書発行事業者の登録申請書」は別の書類
「消費税課税事業者届出書」と、インボイス登録のための「適格請求書発行事業者の登録申請書」は、それぞれ目的の異なる書類です。
消費税課税事業者届出書は、基準期間・特定期間の課税売上高などにより、法律上課税事業者になったことを届け出る書類です。
一方、「適格請求書発行事業者の登録申請書」は、取引先へインボイスを発行できる事業者として登録を受けるための申請書です。
したがって、「インボイス登録をしたので、消費税課税事業者届出書も必ず提出する」という関係ではありません。それぞれの書類の目的を分けて考えることが重要です。
インボイス登録後は消費税の申告・納税が必要
「消費税課税事業者届出書が不要」ということは、「消費税の申告も不要」という意味ではありません。
インボイス発行事業者は課税事業者であるため、基準期間の課税売上高が1,000万円以下でも消費税の申告が必要です。クリエイターの場合、登録後は売上金額だけでなく、取引ごとの税率や課税区分、仕入税額控除に必要となる帳簿・請求書等も管理する必要があります。
freeeやマネーフォワードなどの会計ソフトを利用する場合も、消費税の課税方式や取引の税区分を正しく設定しておくことが重要です。会計ソフトを使えば集計の手間は減らせますが、取引自体の税務上の判断まで自動的に正しくなるわけではありません。
消費税課税事業者届出書の提出期限はいつ?
消費税課税事業者届出書は、所得税の確定申告と同じ期限までに提出する書類ではありません。課税事業者になることが分かった場合は、速やかに提出する必要があります。
原則「事由が生じた場合、速やかに」
国税庁では、消費税課税事業者届出書の提出時期について、基準期間用・特定期間用のどちらも「事由が生じた場合、速やかに」としています。
つまり、「所得税の確定申告期限までに提出すればよい」という書類ではありません。基準期間の課税売上高が1,000万円を超えていることが分かった場合や、特定期間終了後に課税事業者に該当することが分かった場合は、速やかに提出します。
また、基準期間によって課税事業者となる場合は「基準期間用」、特定期間による場合は「特定期間用」を使用します。同じ名称の届出書でも様式が異なるため、提出する書類を取り違えないようにしましょう。
提出先・提出方法
消費税課税事業者届出書の提出先は、納税地を所轄する税務署です。提出方法にはe-Taxによる電子提出と、書面による提出があります。
国税庁ではe-Taxから基準期間用・特定期間用の届出書を提出できるようにしており、書面の場合は税務署への持参または送付が可能です。
個人事業主であれば、e-Taxを利用することで税務署へ出向かずに手続きを進められます。書面で提出する場合は、国税庁サイトから最新の様式を取得し、納税地を所轄する税務署を確認して提出しましょう。
消費税課税事業者届出書と「課税事業者選択届出書」の違い
「消費税課税事業者届出書」と「消費税課税事業者選択届出書」は名前が似ていますが、提出する場面は異なります。「課税事業者になった」のか、「課税事業者になることを自ら選ぶ」のかが大きな違いです。
課税事業者届出書は「課税事業者になったことを届け出る」
消費税課税事業者届出書は、基準期間や特定期間の課税売上高が1,000万円を超えるなど、法律上の要件によって消費税の納税義務が発生した場合に提出します。
つまり、個人事業主が自分の意思で「課税事業者になりたい」と選ぶための書類ではありません。すでに課税事業者となる要件を満たしたことを、税務署へ届け出るための書類です。
売上が1,000万円を超えたクリエイターが手続きを確認するときは、まず「自分が課税事業者を選ぶのか」ではなく、「基準期間または特定期間の要件によって、すでに課税事業者に該当しているのか」を確認しましょう。
課税事業者選択届出書は「免税事業者が自ら課税事業者になることを選ぶ」
消費税課税事業者選択届出書は、基準期間の課税売上高が1,000万円以下など、本来は免税事業者となる個人事業主が、自ら課税事業者になることを選択するための書類です。
たとえば、高額なパソコンや撮影機材、制作設備などへの投資によって、売上にかかる消費税より仕入れ・経費にかかる消費税のほうが大きくなり、原則課税で消費税の還付を受けられる見込みがある場合などに選択が検討されます。
ただし、課税事業者を選択すれば、原則として消費税の申告・納税が必要になります。また、課税事業者選択届出書には適用時期や継続適用に関するルールもあるため、一時的な設備投資だけで判断せず、将来の売上や経費も含めて検討することが大切です。
インボイス登録で課税事業者になる場合は別の手続き
インボイスを発行するために課税事業者になる場合は、「適格請求書発行事業者の登録申請書」による登録手続きを行います。
2026年現在、免税事業者が、令和5年10月1日から令和11年9月30日までの日の属する課税期間中にインボイス発行事業者の登録を受ける場合、登録日から課税事業者となる経過措置が設けられています。
この場合、原則として「消費税課税事業者届出書」や「消費税課税事業者選択届出書」を別途提出する必要はありません。
つまり、「基準期間・特定期間の売上が1,000万円を超えて課税事業者になる」「免税事業者が自ら課税事業者を選択する」「インボイス登録によって課税事業者になる」の3つでは、課税事業者になる理由と必要な手続きがそれぞれ異なります。
まとめ
売上が1,000万円前後になると、課税売上高の集計だけでなく、届出書の種類やインボイス登録との関係、消費税の計算方法など判断すべき事項が増えてきます。
会計ソフトを活用して日頃から売上や税区分を整理しつつ、自分がどの手続きに該当するのか判断に迷う場合は、税理士への相談も検討してみてください。
‐免責事項‐
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