
アーティストやクリエイターとして収入を得た場合、本業・副業の違いや所得額によって確定申告の要否が変わります。画材や楽器、制作機材なども、創作活動との関連性によって経費にできる範囲が異なるので、迷うこともあるでしょう。
そこで本記事では、申告が必要となる条件、経費の判断基準、源泉徴収された税金が戻る還付の仕組みを実務に沿って解説します。
アーティストに確定申告は必要?対象となる人の条件
アーティストに確定申告は必要なのでしょうか。必要な場合、どのような条件で必要なのかも確認しましょう。
本業としてアーティスト活動・フリーランスをしている場合
画家、音楽家、イラストレーターなどが専業で活動している場合、1年間の収入から経費を差し引いた所得が95万円を超える場合に確定申告が必要です。
所得税は1年間の所得が基礎控除額を超えた場合に必要となります。所得が132万円までである場合95万円が基礎控除額となるので、95万円を超える所得があると確定申告が必要です。
なお、基礎控除額は合計所得金額や申告年分によって異なるため、単純に売上額だけで判断しないことが重要です。
会社員やアルバイトをしながら「副業」で活動している場合
勤務先で年末調整を受ける会社員やアルバイトは、アーティスト活動を含む給与・退職所得以外の所得が年間20万円を超えると、原則として確定申告が必要です。
この20万円は収入ではなく、収入から経費を差し引いた所得で判定するのは専業の場合と変わりません。
アルバイトを掛け持ちしている場合、通常は主な勤務先だけで年末調整を受けます。2か所以上から給与を得ている人は、年末調整されなかった給与収入と、副業所得との合計が20万円を超えるか確認し、各勤務先の源泉徴収票を申告書へ反映します。
赤字でも「確定申告(還付申告)」をした方が得するケース
報酬から所得税等が源泉徴収されている場合は、アーティスト活動が赤字または低所得でも、確定申告により税金が戻る可能性があります。
源泉徴収とは支払時点で行う税金の前払いであり、報酬から支払われる際に業務委託先から差し引かれます。しかし、その額は実際の経費や所得控除を反映した最終税額ではありません。機材購入や個展開催費などを差し引いた結果、本来の税額が源泉徴収税額を下回れば、その差額が還付されます。
申告しなければ自動的には戻らないため、支払調書、請求書、入金明細などで源泉徴収税額を確認しましょう。還付申告は原則として翌年1月1日から5年間提出できますが、青色申告特別控除など期限内申告が要件となる制度には注意が必要です。
アーティストが経費にできるもの・できないもの
アーティストが経費にできるものにはどのようなものがあるかを確認しましょう。
アーティストが「経費にできるもの」の具体例
代表的な経費と勘定科目の例は次のとおりです。勘定科目は絶対的なものではありませんが、同じ内容の支出は継続して同じ科目で処理すると帳簿を管理しやすくなります。
| 勘定科目の例 | 支出の例 | 注意点 |
|---|---|---|
| 材料費・消耗品費 | 絵の具、キャンバス、額縁、楽器の弦、少額の機材・衣装 | 高額なPC、ペンタブ、楽器などは減価償却を検討 |
| 地代家賃・水道光熱費 | 自宅アトリエ、作業部屋、制作に使う電気代 | 床面積や使用時間などで家事按分 |
| 旅費交通費・宿泊費 | ライブツアー、個展の搬入・搬出、取材旅行 | 私的な観光部分は除外 |
| 取材費・研修費・新聞図書費 | 映画、美術展、参考書籍、デザイン誌 | 作品名、取材目的、関連案件を領収書や半券にメモ |
| 接待交際費・会議費 | クライアントや編集者との打ち合わせ、業務上の打ち上げ | 参加者、目的、案件名を記録 |
自宅兼アトリエの家賃や光熱費は、事業で使った部分だけを経費にします。映画代や美術展の入場料も、作品研究や取材に直接関係する場合は経費となり得ますが、事業との関連性を説明できる記録を残すことが必要です。
10万円以上の機材や楽器はどうなる?「減価償却」の基本
10万円以上のパソコン、カメラ、楽器などは、原則として購入年に全額を経費にせず、法定耐用年数に応じて複数年に分けて経費化する「減価償却」を行います。
10万円未満は原則として使用開始年に全額を経費にでき、10万円以上20万円未満は3年間で均等償却する方法を選べる場合があります。
また、一定の青色申告者は「少額減価償却資産の特例」を利用できます。これまでは30万円未満を基準としていましたが、令和8年度税制改正により、現在は40万円未満の資産を年間合計300万円まで即時に経費化できる制度へ拡充されています。
アーティストが損をしないために知っておくべき基礎税務知識
アーティストが税金で損をしないために知っておくべき基本的な税務知識を確認しましょう。
節税効果が大きい青色申告と手軽な白色申告の違い
継続してアーティスト活動を行う場合は、白色申告よりも青色申告を選ぶことで節税につながる可能性があります。
白色申告は事前申請が不要で、比較的簡易な方法で記帳できます。ただし、青色申告特別控除や赤字の繰越しなど、青色申告に認められる特典は利用できません。
青色申告では、一定の要件を満たすと10万円、55万円または65万円の青色申告特別控除を受けられます。65万円控除には、複式簿記による記帳、貸借対照表・損益計算書の作成、期限内申告に加え、e-Taxによる申告または一定の電子帳簿保存が必要です。
青色申告を始めるには、原則として事前に「所得税の青色申告承認申請書」を提出します。また、青色申告を利用できるのは、アーティスト活動による所得が事業所得に該当する場合です。業務に係る雑所得に該当するときは利用できません。
ギャラから引かれる「源泉徴収」と著作権収入の仕組み
原稿料、デザイン料、著作権の使用料、出演料など、一定の報酬は、支払時に所得税および復興特別所得税が源泉徴収されることがあります。
一般的な原稿料などでは、1回の支払額が100万円以下なら10.21%、100万円を超える場合は、100万円以下の部分に10.21%、100万円を超える部分に20.42%が適用されます。ただし、すべてのギャラに一律で適用されるわけではなく、報酬の種類や支払者によって扱いが異なります。
源泉徴収された金額は、税金の前払いです。確定申告では、報酬の総額を売上として計上したうえで、源泉徴収税額を申告書へ入力します。入力漏れは、結果として税金を二重に負担することになりかねないので、注意が必要です。
インボイス制度や海外活動(外国税額控除)の影響
企業との取引が多いアーティストは、取引先からインボイス発行事業者への登録を求められることがあります。ただし、登録は取引状況や売上規模を踏まえて判断することが重要です。
免税事業者がインボイス登録をすると、原則として消費税の申告・納付が必要になります。登録による取引上のメリットだけでなく、消費税の負担や請求書発行、記帳の事務負担も確認しましょう。
また、海外の配信サービスや海外個展などで収入を得た場合、日本の確定申告でも収入を計上する必要があります。現地で所得税に相当する税金が課されているときは、一定の範囲で日本の所得税から差し引く「外国税額控除」を利用できる場合があります。
※外国税額控除には控除限度額があり、海外で引かれた金額のすべてが控除されるとは限りません。
アーティストがスムーズに確定申告を終わらせるための4ステップ
アーティストがスムーズに確定申告を終わらせるための4ステップを知っておきましょう。
ステップ1:領収書やレシート、支払調書の整理・保管
まずは、紙の領収書やレシート、請求書、銀行口座の入出金明細、クレジットカード明細、取引先から届いた支払調書を集めます。
電子メールやオンラインサービスで受け取った請求書・領収書などの電子取引データは、原則として電子データのまま保存します。
なお、支払調書が発行されない場合もあるため、支払調書だけに頼らず、請求書と入金額、源泉徴収税額を取引先ごとに確認しましょう。
ステップ2:日々の取引の記帳
次に、売上や経費を帳簿へ記録します。
白色申告では収支内訳書、青色申告では青色申告決算書を作成するため、勘定科目ごとに取引を整理しておきましょう。
freeeやマネーフォワードなどのクラウド会計ソフトを利用すると、銀行口座やクレジットカードの明細を取り込み、記帳作業を効率化できます。ただし、自動提案された勘定科目が正しいとは限らないため、事業との関連性や家事按分も確認する必要があります。
ステップ3:確定申告書の作成
帳簿と必要書類がそろったら、国税庁の「確定申告書等作成コーナー」や会計ソフトを利用して申告書を作成します。
売上、必要経費、所得控除、源泉徴収税額を順番に入力し、白色申告では収支内訳書、青色申告では青色申告決算書の内容を申告書へ反映します。会社員やアルバイト収入がある場合は、勤務先から交付された源泉徴収票の内容も入力してください。
ステップ4:税務署への提出・納税(または還付金の受け取り)
完成した申告書は、e-Tax、郵送または税務署への持参により提出します。
スマートフォンやパソコンから手続きできるe-Taxなら、自宅から申告書を送信でき、青色申告特別控除65万円の要件にも対応できます。
納税額がある場合は、振替納税、インターネットバンキング、クレジットカード、スマホアプリ納付などから方法を選びます。還付となる場合は、申告書へ本人名義の金融機関口座を記載し、還付金の入金を待ちます。
まとめ

本記事では、アーティストの確定申告について解説しました。
本業・副業の違いによって申告要否の基準が異なるのを確認し、創作活動との関連性に基づいて経費を判断しましょう。源泉徴収税額を正しく申告すれば、所得が低い年や赤字の年に税金が還付される場合もあります。
一方、家事按分、高額機材の減価償却、インボイス制度、海外収入などは、個別の状況によって処理が異なります。
経費の判断や申告方法に不安がある場合は税理士への相談をおすすめします。
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