
クリエイターとしての制作環境を整えるために、高性能なPCや液タブ、カメラなどの購入を検討する場面は少なくありません。これらの資産は固定資産と呼ばれ減価償却の対象となるのですが、一定の少額の減価償却資産については特例があります。
本記事では、2026年度税制改正後の少額減価償却資産の特例と、クリエイターが機材を購入する際の実務上の注意点を解説します。
少額減価償却資産の特例とは?個人事業主が知るべき基本
個人事業主として知っておくべき「少額減価償却資産」とはどのようなものでしょうか。
そもそも「減価償却」とは?
減価償却とは、長期間使用する資産の購入費を、法定耐用年数にわたって必要経費にする会計処理のことをいいます。
個人事業主が事業用に購入したPCやカメラなどは、原則として取得価額が10万円以上になると固定資産として扱われます。購入年に全額を経費にするのではなく、PCなら原則4年、カメラなら原則5年に分けて経費化します。
実際の減価償却費は、取得価額、使用開始月、償却方法などに基づいて計算します。私用と兼用する機材については、事業で使用する割合だけを必要経費に計上します。
【2026年最新】「少額減価償却資産の特例」で40万円未満が一括経費に!
2026年度税制改正により、少額減価償却資産の特例の対象額が、従来の30万円未満から40万円未満へ引き上げられました。
2026年4月1日以後に35万円の動画編集用PCを取得し、その年に事業で使い始めた場合、要件を満たせば35万円全額を使用開始年の必要経費にできます。2026年3月31日以前の取得分には、原則として従来の30万円未満の基準が適用されます。
なお、一括経費にするには購入や支払いだけでなく、対象年中に事業で使用を開始する必要があります。
特例を利用できる人の条件
この特例を利用できるのは、青色申告書を提出している個人事業主などです。白色申告では利用できません。また、対象となるのは事業のために取得し、実際に使用を開始した減価償却資産です。
特例を適用する場合は、青色申告決算書の「減価償却費の計算」欄に必要事項を記載します。領収書や請求書に加え、取得日や使用開始日が分かる資料も保存しましょう。
会計ソフトでは固定資産台帳に登録し、償却方法として「少額減価償却資産」などを選択します。単に消耗品費として入力すると、決算書に正しく反映されない場合があります。
金額別にみる!クリエイターの機材・パソコンの経費処理パターン
機材の処理方法は、原則として1台・1個または通常一組として使用する単位の取得価額で決まります。
| 購入金額 | 主な処理方法 | 勘定科目の例 | 特徴 |
|---|---|---|---|
| 10万円未満 | 一括経費 | 消耗品費・事務用品費 | 白色申告でも利用可能 |
| 10万円以上20万円未満 | 一括償却資産または特例など | 一括償却資産・工具器具備品 | 複数の処理方法を選べる |
| 20万円以上40万円未満 | 特例または通常の減価償却 | 工具器具備品 | 青色申告なら一括経費にできる |
| 40万円以上 | 通常の減価償却 | 工具器具備品 | 法定耐用年数に分けて経費化 |
① 10万円未満
取得価額が10万円未満の機材は、原則として事業で使用を開始した年に全額を必要経費にできます。青色申告・白色申告を問わず利用でき、勘定科目は「消耗品費」や「事務用品費」などが一般的です。
安価なモニター、キーボード、買い切り型のフォントライセンスなどが該当します。月額・年額制のソフトウェアは、資産ではなく利用料として「通信費」や「支払手数料」などで処理します。
② 10万円以上20万円未満
10万円以上20万円未満の機材は、通常の減価償却、一括償却資産、少額減価償却資産の特例から処理方法を選べます。
一括償却資産を選ぶと、法定耐用年数にかかわらず取得価額を3年間で均等に経費化します。青色申告をしていれば、特例により使用開始年に全額を計上することも可能です。
一括償却資産には少額減価償却資産の特例における年間300万円の上限がないため、購入額やその年の利益に応じて選択しましょう。
③ 20万円以上40万円未満
20万円以上40万円未満は、特例を活用する効果が大きい価格帯です。高級液タブ、中・高スペックPC、カメラレンズなどが該当します。
たとえば、青色申告をしているイラストレーターが35万円の液タブを購入した場合、要件を満たせば35万円全額を使用開始年の必要経費にできます。その年の利益を圧縮できますが、翌年以降も利益が見込まれる場合は、通常の減価償却で経費を複数年に分ける方法も検討できます。
④ 40万円以上
取得価額が40万円以上の資産には特例を適用できず、原則として通常の減価償却を行います。
3DモデリングやAI生成用の高性能PCは原則4年、業務用カメラは原則5年に分けて経費化します。個人事業主は原則として定額法を用い、年の途中で使用を開始した場合は月割りで計算します。
クリエイターが「少額減価償却資産の特例」を活用する2大メリット
「少額原価償却資産の特例」を活用すると、即効性のある節税ができ、さらにハイスペック機材も導入しやすくなります。2つのメリットをチェックしていきましょう。
メリット1:利益が出た年の「即効性のある節税」になる
大きな案件の報酬が入った年に40万円未満の機材を導入し、特例によって全額を必要経費にすれば、課税対象となる所得を圧縮できます。その結果、所得税や住民税の負担が軽減され、対象業種では個人事業税が減る場合もあります。
ただし、節税額より購入代金の方が大きいため、不要な機材の購入は資金繰りを悪化させます。また、年末までに注文・支払いをしただけでは足りず、その年に納品され、事業で使用できる状態にすることが必要です。
メリット2:最新の制作環境(ハイスペック機材)を導入しやすい
機材の性能は、クリエイターの作業効率や成果物の品質に直結します。40万円未満の機材を早期に経費化できれば、価格だけを理由に性能を妥協せず、業務に適したPCや液タブ、カメラを導入しやすくなります。
ただし、購入の判断では、売上への貢献や使用期間、手元資金も確認しましょう。私用と兼用する場合は、使用時間などの合理的な基準で家事按分します。
落とし穴に注意!特例を使う際の実務的な注意点
特例には年間の上限があり、取得価額を判定する単位や消費税の経理方式によっても適用の可否が変わります。
年間合計で「300万円」の上限がある
特例を適用できる取得価額の合計は、1年間で300万円までです。40万円未満の機材でも、無制限に一括経費にできるわけではありません。
スタジオの機材を一新するなど、合計額が300万円を超える場合は、特例を適用する資産を選び、残りを通常の減価償却などで処理します。事業期間が1年未満の場合、上限額は月数に応じて按分されます。会計ソフトの固定資産台帳で、適用額を管理しましょう。
判定は「1台・1セット」単位(周辺機器の合算に注意)
40万円未満かどうかは、原則として通常の取引単位で判定します。PC本体が35万円、単独でも使用できるモニターが8万円で、別々の資産と認められれば、それぞれの金額で処理できます。
一方、BTOパソコンの注文時にCPUやGPUなどを追加し、完成した1台のPCが43万円になった場合は、部品ごとに分けられません。PC全体で判定するため特例の対象外です。
複数の機器が一体となって初めて機能する場合も、セット全体の取得価額で判断する可能性があります。取得価額には、送料や設定費用など、使用するために直接必要な費用も原則として含まれます。
税込経理か税抜経理かで「40万円」の判定が変わる
免税事業者と税込経理を採用する課税事業者は、税込金額で40万円未満かを判定します。課税事業者が税抜経理を採用している場合は、原則として税抜金額で判定します。
たとえば、税抜38万円、税込41万8,000円のPCは、税抜経理なら40万円未満となり、ほかの要件を満たせば特例を利用できます。一方、免税事業者や税込経理では41万8,000円で判定するため、対象外です。
会計ソフトを使用する場合も、事業者区分と消費税の経理方式を確認してから、固定資産台帳へ取得価額を登録しましょう。
まとめ

本記事では少額減価償却資産の特例について解説しました。
青色申告をしている個人事業主は、2026年4月1日以後に取得した40万円未満のPCや制作機材について、少額減価償却資産の特例を利用できます。
ただし、年間300万円の上限、1台・1セット単位の判定、税込・税抜経理の違いなどに注意が必要です。一括経費と通常の減価償却のどちらが適しているかは、現在の利益や翌年以降の見込みによって異なります。
減価償却に限らず適切な経費処理に迷う場合は、税理士への相談をおすすめします。田中貴久公認会計士事務所はクリエイター・個人事業主の税務・会計に強いので、お気軽にご相談ください。
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