1人社長_男性

個人事業主として活動するクリエイターの中には、売上や利益が伸びてきたことで「法人化したほうがよいのでは」と考える方もいるでしょう。1人社長になると、節税や信用力向上などのメリットがある一方、社会保険料や事務負担が増える点には注意が必要です。

そこで本記事では、個人事業主と1人社長の違い、クリエイターが1人社長になるメリット、法人化の手順を解説します。

1人社長(ひとり社長)とは?個人事業主との違い

まずは1人社長とはどのようなものか、および個人事業主との違いについて確認しましょう。

1人社長の定義

1人社長とは、従業員を雇用せず、代表者1人で経営する株式会社や合同会社のことです。

デザイナー、イラストレーター、漫画家、動画制作者、ライター、エンジニアなど、1人で成果物を制作・納品するクリエイターにも多い法人形態です。

1人社長として法人を運営すると、契約や請求の主体は個人ではなく会社になります。そのため、法人名義で契約を結んだり、法人口座を開設したり、会社名義で経費を管理したりできるようになります。

一方で、法人として決算申告を行う必要があり、社会保険の加入義務も発生します。個人事業主の延長線上で働ける部分はありますが、税務や事務の面では「会社を運営する立場」になる点を理解しておきましょう。

個人事業主と1人社長の違い

個人事業主と1人社長の大きな違いは、事業の主体が「個人」か「法人」かという点です。

個人事業主は、本人が事業主として所得税を申告します。一方、1人社長は会社が法人税等を申告し、社長個人は会社から役員報酬を受け取ります。

後に詳細に述べますが、主に次のような違いがあります。

 税金社会保険経費の範囲社会的信用の違い
個人事業主所得税国民健康保険認められる範囲が狭い社会的信用が低い
1人社長(会社)法人税健康保険認められる範囲が広い社会的信用が高い

クリエイターが1人社長になる5つのメリット

クリエイターが1人社長になるメリットとして、次の5つが挙げられます。一つずつチェックしていきましょう。

節税効果が高い

1人社長になる大きなメリットは、利益が一定以上ある場合に税負担を調整しやすくなることです。

個人事業主の所得税は累進課税であり、所得が増えるほど税率が高くなります。所得税の最高税率は45%で、住民税や個人事業税も考慮すると、利益が大きい人ほど負担が重くなりやすい仕組みです。一方、法人化すると、会社の利益には法人税等が課されます。

中小法人の場合、年800万円以下の所得部分に15%の軽減税率が適用されるため、利益水準によっては個人事業主のままよりも税負担を抑えられる可能性があります。

ただし、法人化すれば必ず節税になるわけではありません。法人住民税均等割は赤字でも発生する場合があり、社会保険料の会社負担もあります。

そのため、税金だけでなく、社会保険料や専門家報酬を含めて試算することが重要です。

役員報酬として「給与所得控除」が使える

法人化すると、会社から自分に対して役員報酬を支払う形になります。

役員報酬は社長個人の給与所得となるため、給与所得控除を使える点がメリットです。個人事業主の場合は、売上から必要経費を差し引いた金額が事業所得になります。

一方、1人社長の場合は、会社側で必要経費を計上し、社長個人は役員報酬から給与所得控除を差し引いて所得を計算できます。
国税庁によると、令和7年分以後の給与所得控除は、給与収入に応じて計算され、給与収入190万円までの場合は65万円です。このように、法人側の経費と個人側の給与所得控除を組み合わせられる点は、法人化の大きな特徴です。

ただし、役員報酬は原則として毎月同額で支給するなど、税務上のルールがあります。期中(期首から期末までの年度の途中の期間すべて)に自由に増減すると、会社の損金として認められない可能性があるため、金額設定は慎重に行いましょう。

社会的信用が上がり、大手企業と取引しやすくなる

1人社長になると、法人名義で契約や請求を行えます。

クリエイターは個人事業主でも仕事を受けられますが、取引先によっては法人との契約を優先する場合があります。特に、大手企業、広告代理店、制作会社、出版社、Web制作会社などと継続的に取引する場合、法人であることが信用面でプラスに働くことがあります。

法人化すると、会社名、本店所在地、代表者、事業目的などが登記されます。取引先から見れば、事業実態を確認しやすくなるため、契約や審査の面で安心材料になることがあります。

また、法人名義の銀行口座や請求書を使えるため、事業としての見え方も整いやすくなります。

ただし、法人化しただけで仕事が増えるわけではありません。クリエイターの場合、実績、ポートフォリオ、納期管理、コミュニケーション品質も重要です。法人化は、これまでの実績に加えて信用力を補強する手段として考えるとよいでしょう。

経費の幅が広がる

1人社長になると、個人事業主のときよりも経費処理の選択肢が広がる場合があります。

クリエイターは、自宅作業、パソコン、液晶タブレット、カメラ、ソフトウェア、通信費、資料代、外注費など、事業と生活が近い支出が発生しやすい職種です。

個人事業主の場合、自宅兼事務所の家賃や光熱費は、事業で使う部分と生活で使う部分を合理的に分ける家事按分が必要です。法人化すると、会社名義の契約や備品購入を整理しやすくなります。

また、一定の要件を満たせば、自宅を法人契約にして社宅として扱い、家賃の一部を法人側で負担する設計ができるケースもあります。これにより、個人事業主の家事按分よりも有利に整理できる場合があります。

ただし、法人だからといって何でも経費にできるわけではありません。社長個人の生活費、私的な買い物、事業との関連性を説明できない支出は経費にできません。法人化後は、会社のお金と個人のお金を明確に分け、領収書や契約書を保存することが重要です。

家族を役員にして所得分散ができる

1人社長になると、配偶者や家族に事務、経理、制作補助、SNS運用、スケジュール管理などを手伝ってもらい、役員報酬や給与を支払うことを検討できます。

家族に適正な報酬を支払うことで、社長1人に所得が集中することを避け、世帯全体の税負担を調整しやすくなる場合があります。たとえば、本人がイラスト制作や動画編集を担当し、配偶者が請求書発行、入金管理、経費整理、投稿管理などを行うケースが考えられます。この場合、実際の業務内容や作業時間に見合った報酬であれば、会社側では人件費として処理できる可能性があります。

ただし、実態のない報酬や、業務内容に比べて高すぎる報酬は税務上問題になる可能性があります。家族へ報酬を支払う場合は、担当業務、作業内容、報酬額の妥当性を説明できるようにしておきましょう。また、社会保険や扶養への影響もあるため、事前に確認することが大切です。

クリエイターが1人社長になる5つの手順

クリエイターが1人社長になるための5つの手順は次の通りです。

会社の基本事項を決める

まず、会社名である商号、本店所在地、事業目的、資本金、決算月などを決めます。

これらは、定款や登記申請書に記載する基本事項です。
クリエイターの場合、特に本店所在地と事業目的を慎重に検討しましょう。自宅を本店所在地にすると、登記情報として住所が公開されます。自宅住所を公開したくない場合は、バーチャルオフィスを利用する方法もあります。

ただし、バーチャルオフィスは銀行口座開設や取引先の審査に影響する場合があるため、利用前に確認が必要です。事業目的には、現在行っている制作業務だけでなく、将来行う可能性のある業務も含めて検討します。

たとえば、イラスト制作、動画制作、Webデザイン、広告制作、コンテンツ販売、講師業などです。決算月は、繁忙期を避けると資料整理や税理士対応の負担を抑えやすくなります。

株式会社か合同会社かを選ぶ

1人社長として法人化する場合、主な選択肢は株式会社と合同会社です。

株式会社は知名度や社会的信用が高く、大手企業との取引、融資、採用、将来的な事業拡大を考える場合に向いています。

一方で、設立時には定款認証が必要で、合同会社よりも設立費用が高くなりやすい点があります。合同会社は、設立費用や運営コストを抑えやすい会社形態です。株式会社に比べると知名度は低いものの、法人格はあるため、法人名義で契約や請求を行えます。

小さく法人化したいクリエイターや、取引先に会社形態へのこだわりが少ない場合には選択肢になります。コストを重視するなら合同会社、信用力やブランドイメージを重視するなら株式会社を検討するとよいでしょう。

定款の作成・認証と資本金の払い込み

会社形態や基本事項が決まったら、定款を作成します。

定款とは、会社の基本的なルールを定めた書類です。商号、本店所在地、事業目的、資本金、役員、決算月などを記載します。株式会社を設立する場合、作成した定款は公証役場で認証を受ける必要があります。

合同会社の場合も定款の作成は必要ですが、公証役場での認証は不要です。そのため、合同会社は株式会社よりも設立時の手間や費用を抑えやすい傾向があります。

定款作成後は、資本金の払い込みを行います。1人社長の場合、発起人である自分の個人口座に資本金を振り込み、通帳コピーや入金履歴を証明資料として準備します。資本金は1円でも会社設立は可能ですが、実務上は当面の運転資金や信用面を考えて設定しましょう。クリエイターの場合、機材費、ソフト代、外注費、広告費なども見込んでおくと安心です。

法務局で設立登記の申請を行う

定款作成と資本金の払い込みが終わったら、本店所在地を管轄する法務局で設立登記を申請します。

会社は、登記をすることで法律上成立します。登記申請では、登記申請書、定款、資本金の払込証明書、代表者の印鑑証明書、就任承諾書など、会社形態に応じた書類を準備します。

申請方法には、窓口申請、郵送申請、オンライン申請があります。会社の設立日は、原則として法務局に設立登記を申請した日です。登記が完了した日ではなく、申請日が会社の誕生日になるため、記念日や縁起のよい日を設立日にしたい場合は、申請日から逆算して準備しましょう。

登記完了後は、登記事項証明書や法人印鑑証明書を取得できるようになります。これらは、法人口座の開設、税務署への届出、社会保険の手続き、取引先への提出などで必要になることがあります。

税務署・年金事務所などへ各種届出を行う

会社を設立した後は、税務署、都道府県税事務所、市区町村、年金事務所などへ各種届出を行います。

登記が完了しただけでは、税務や社会保険の手続きは終わりません。

まず税務署には、法人設立届出書を提出します。

また、青色申告を行う場合は、青色申告の承認申請書も提出します。新設法人が設立第1期目から青色申告の承認を受けるには、原則として設立の日以後3か月を経過した日と、設立第1期の事業年度終了日のうち、いずれか早い日の前日までに申請が必要です。青色申告の承認を受けると、欠損金の繰越控除など、法人税申告上のメリットを受けられる可能性があります。また、給与を支払う場合は、給与支払事務所等の開設届出書や源泉所得税の納期の特例に関する申請書が必要になる場合もあります。

また、1人社長となる法人も、厚生年金保険および健康保険の加入が義務づけられます。新規適用届は、事実発生から5日以内に提出する必要があるので注意しましょう。

社会保険料は会社と個人の双方で負担するため、法人化後の手取りに大きく影響します。税金だけでなく、社会保険料も含めて法人化の効果を確認しましょう。

まとめ

本記事では1人社長とはどのようなものか、個人事業主との違いやメリット・デメリット、手続きについて解説しました。

個人事業主のクリエイターが1人社長になると、節税効果、給与所得控除の活用、社会的信用の向上、経費処理の幅の広がり、家族への所得分散などのメリットを得られる可能性があります。

一方で、法人化後は、決算申告、役員報酬の設定、社会保険加入、税務署や年金事務所への届出など、個人事業主時代よりも実務負担が増えます。

法人化は、売上だけで判断するのではなく、利益額、手取り、社会保険料、取引先、将来の事業展開を総合的に見て検討することが重要です。

特にクリエイターは、収入源や経費の内容が人によって異なるため、一般的な目安だけで判断しにくい面があります。クリエイター・個人事業主に強い田中貴久公認会計士事務所にお気軽にご相談ください。

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