経費の計算

個人事業主が「経費で落とす」とは、支払ったお金が返ってくることではありません。事業に必要な支出を売上から差し引き、所得を正しく計算することを意味します。

経費を正しく計上できれば、所得税や住民税の負担を適正に抑えられる可能性があります。しかし、仕事と関係のない支出を経費にすると、税務調査で否認されるリスクがあるので、注意が必要です。

本記事では、「経費で落とす」とはどういう意味なのか、どのような支出が経費で落とせるのか、などについて解説します。

そもそも個人事業主が「経費で落とす」とはどういう意味?

個人事業主が「経費で落とす」とは、事業に必要な支出を売上から差し引き、所得を計算することです。

会社員の経費精算のように、誰かからお金が返ってくるわけではありません。国税庁では、事業所得は「総収入金額-必要経費」で計算すると説明されています。つまり、個人事業主にとって経費は、税金の対象となる所得を適正に計算するためのものです。

「経費にすれば無料になる」「買った分だけ得をする」という意味ではない点を、まず押さえておきましょう。

「経費で落とす」の本当の意味

「経費で落とす」の本当の意味は、事業のために使った費用を帳簿に記録し、売上から差し引くことです。

たとえば、イラストレーターが仕事用に液晶タブレット、Adobe CC、CLIP STUDIO、フォント、プラグインなどを購入した場合、制作業務に必要な支出であれば経費として処理できる可能性があります。

動画編集者であれば、編集ソフト、外付けSSD、撮影用ライト、マイクなどが該当する場合があります。

ただし、同じパソコンやソフトでも、私的利用がある場合は全額を経費にできるとは限りません。仕事とプライベートの両方で使うものは、使用割合に応じて按分することが基本です。支出の名称ではなく、売上や制作活動との関連性を説明できるかどうかが判断基準となります。

所得税算出の仕組み

経費の計算の目的である所得税額算出の仕組みを確認しておきましょう。

個人事業主の所得税は、売上そのものにかかるわけではありません。基本的には、売上から必要経費を差し引き、さらに各種控除を反映した課税所得をもとに計算します。

売上 - 経費 - 控除 = 課税所得

この課税所得に税率をかけるため、経費を正しく計上すれば、税金の対象となる金額を適正に下げられます。

たとえば、売上が500万円あっても、事業に必要な経費が150万円あれば、税金は売上500万円全体にかかるわけではありません。

ただし、経費を増やせば必ず得をするわけではありません。経費にするには実際にお金を支払うため、不要な買い物をすれば手元資金は減ります。

節税効果だけでなく、事業に必要な支出かどうかを基準に判断しましょう。

経費で落とすとどうなる?得られる3つのメリット

経費で落とすことで得られる3つのメリットがあります。

所得税・住民税が安くなる

経費で落とすメリットの1つは、所得税や住民税が安くなることです。

個人事業主が支払う所得税や住民税は、基本的に所得をもとに計算されます。所得とは、売上から必要経費を差し引いたものです。そのため、事業に必要な支出を漏れなく計上すれば、課税対象となる所得が小さくなり、税負担の軽減につながります。

ただし、税金を減らす目的だけで不要なものを買うのは本末転倒です。経費は「使えば得をする支出」ではなく、「事業に必要だった支出を正しく反映するもの」と考えましょう。

国民健康保険料の節約につながる

経費計上は、国民健康保険料節約の負担が軽減される場合があります。

個人事業主が加入する国民健康保険は、自治体ごとに計算方法が異なりますが、一般的には前年の所得をもとに保険料が算定されます。そのため、保険料の負担を抑えることにもつながります。

事業の実態を把握し、経営判断ができる

事業の実態を把握し、経営判断に役に立てられます。経費を記録するメリットは、節税だけではありません。

何にいくら使っているかを可視化することで、事業の実態を把握しやすくなります。クリエイターの場合、制作ソフト、機材、資料、外注費、広告宣伝費、交通費など、支出の種類は多岐にわたります。これらを整理せずに事業を続けると、売上はあるのに利益が残らない原因を把握しにくくなります。

経費管理は、税金対策であると同時に、事業を継続するための数字の管理でもあります。

経費で落とすデメリットや注意点

経費で落とすことにはメリットがありますが、注意点もあります。

手元の現金は確実に減る

経費で落とせる支出であっても、支払ったお金が全額戻ってくるわけではありません。

不要な買い物をすれば、節税効果よりも資金流出の方が大きくなる可能性があります。経費にするかどうかを考える前に、その支出が制作環境の改善、売上向上、業務効率化につながるかを確認しましょう。

「なんでも経費」は税務調査のリスクに

経費で落とす際に注意したいのは、「仕事に少しでも関係がありそうだから」という理由だけで、すべてを経費にしないことです。

税務上の必要経費として認められるのは、事業との関連性を客観的に説明できるもののみです。友人との食事代、私的な旅行代、日常的な美容代などを無理に経費化すると、税務調査で否認される可能性があります。

赤字すぎると融資に影響が出る可能性

利益を極端に少なくしたり、毎年のように赤字にしたりすると融資に影響することも考えられます。

金融機関は、将来的に返済できるかどうかを見て審査するため、赤字が続いていると返済能力に不安があると見られる可能性があります。

【クリエイター版】経費で落とせるもの・落とせないものの判断基準

クリエイターの支出で経費で落とせるかどうかの判断基準を見てみましょう。

判断の極意は「売上に貢献しているか?」

クリエイターが経費かどうかを判断する際は、「その支出がなければ、その仕事や作品制作を完遂できなかったか」を考えると整理しやすくなります。

たとえば、イラスト制作に使う液晶タブレット、ペン先、Adobe CC、CLIP STUDIO、フォント、プラグインなどは、制作業務と直接関係しやすい支出です。

一方、仕事に関係する可能性があっても、プライベート利用が大きいものは注意が必要です。スマートフォンやインターネット回線を仕事と私用の両方で使っている場合は、使用割合に応じて按分するのが基本です。

領収書だけでなく、案件名、用途、使用割合、制作物との関係を残しておくと、後から説明しやすくなります。

クリエイターが「経費で落とせるもの」具体例

クリエイターが経費で落とせるものの具体例には次のものがあります。

制作環境に関するものとしては、パソコン、モニター、液晶タブレット、iPad、ペン先、左手デバイス、Adobe CC、CLIP STUDIO、フォント購入費、プラグイン代などが挙げられます。

作業用のデスクや椅子も、業務に必要なものであれば経費になる可能性があります。

アーロンチェアなどの高額な椅子であっても、長時間の制作作業に必要な作業環境として説明できるかがポイントです。

インプットや資料に関するものとしては、技法書、雑誌、作画資料としての漫画、設定の参考にする小説などが考えられます。

映像作家やイラストレーターが、演出や色彩の研究のために映画や展示会を鑑賞した場合も、業務との関連性を説明できれば経費になる可能性があります。

ゲームレビューを書くライターのゲーム代、造形師が立体構造を把握するために購入するおもちゃなども、仕事内容との結びつきが重要です。

外注費としては、アシスタントへの謝礼、ロゴデザインの外部委託、動画編集や音声編集の依頼費などが該当します。

振込手数料、販売プラットフォームの手数料、クラウドソーシングの利用料なども、事業に必要な支出として処理できる場合があります。

クリエイターでも「経費で落とせないもの」

一方でクリエイターであっても、仕事に関係しない私的な支出は経費にできません。

たとえば、一人で作業中に食べたコンビニ弁当や、友人との単なる飲み会は、原則としてプライベートな飲食代と判断されます。

打ち合わせや取材目的の飲食であれば接待交際費や会議費として処理できる場合がありますが、誰と何のために会ったのかを説明できることが前提です。

また、制作に直接関係しないジムの月謝、仕事と関係のない資格取得費、日常的な美容院代や通常の衣服代なども注意が必要です。

「仕事に役立つ気がする」という主観だけでは不十分です。

特定の撮影、配信、イベント、作品制作などとの具体的な関係を説明できるかで判断しましょう。

クリエイターが「これは経費?」と迷うグレーゾーン

クリエイターの経費には、明確に経費と判断しやすいものだけでなく、仕事と私生活の両方に関係するグレーゾーンもあります。

カフェ代はどこまでOK?

カフェ代は、目的によって経費になるかどうかが変わります。

取引先や編集者、クライアントとの打ち合わせで利用した場合は、接待交際費や会議費として処理できる可能性があります。この場合は、領収書に加えて、相手の名前、打ち合わせ内容、案件名などをメモしておくとよいでしょう。

一方、一人で作業するためにカフェを利用した場合は、判断が分かれやすい支出です。業務上必要な作業場所として利用した場合には、雑費などとして処理できる可能性がありますが、飲食そのものは私的な要素もあります。

友人との食事や、仕事と関係のない休憩目的のカフェ代は経費にはなりません。

美容代・衣装代は?

美容代や衣装代は、クリエイターの業種によって判断が大きく変わる支出です。

Vtuber、顔出し配信者、モデルを兼ねるクリエイター、イベント出演者などにとって、ビジュアルは商品やサービスの一部になる場合があります。
たとえば、撮影、ライブ配信、イベント出演の直前に行ったヘアメイク、キャラクターのイメージに合わせた特殊なネイルやカラーリング、撮影専用の衣装などは、業務との関係性を説明できれば経費になる可能性があります。

一方で、日常生活でも使う通常の美容院代、普段着としても着られる服、私生活で使う化粧品などは、私的支出と判断されやすいものです。

撮影日、出演イベント、配信企画、作品名などと紐付けて記録しておきましょう。

旅行・出張代は?

旅行や出張に関する費用は、仕事との紐付けが特に重要です。

取材旅行、ロケハン、展示会参加、イベント出演、クライアント訪問など、事業目的が明確であれば、交通費、宿泊費、現地移動費などを経費にできる可能性があります。

外から見ると単なる観光に見える旅行は、税務上も疑問を持たれやすい支出です。取材旅行として経費にするには、旅程表、取材メモ、撮影データ、制作物、記事URL、納品物などを残し、仕事との関係を示せるようにしておきましょう。

まとめ

本記事では「経費で落とす」意味と、具体例について解説しました。必要な支出については、経費に計上すれば、所得税や住民税、国民健康保険料を適正化できる可能性があります。
一方で、不要な支出を増やせば手元資金は減り、仕事と関係のない支出を経費にすれば税務調査で否認されるリスクもあります。

判断基準はあくまで「売上や制作活動に必要か」「事業との関連性を客観的に説明できるか」です。判断に迷う場合は、クリエイター・個人事業主に強い田中貴久公認会計士事務所にお気軽にご相談ください。

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